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1-4 オーディオの変遷


ここでは、オーディオの変遷について説明します。といっても、私自身オーディオ歴が浅いマニアなので、いくつかの書籍を元にその起源を掘り起こしてみようと思います。


「蓄音機」 (約150年前~)

蓄音機というと「エジソン!」と反射的に答えたくなりますが、エドゥアール=レオン・スコット・ド・マルタンヴィルが「フォノトグラフ」という録音機を開発したのが1857年になります。

wikipedia

そして、【録音と再生】をする方法を発明し、有名な話として残っているのがエジソンです。
これが1877年の12月とのこと。この時の音声はYoutubeなどで聴けるようです。「メリーさんのひつじ (Mary Had a Little Lamb)」「エジソン」で検索すれば出てくるはずです。


これらが日本でお目見えするのが、1910年頃。アメリカ人F.W.ホーンが、川崎でレコードおよび蓄音器を製造を開始し、日本初の国産蓄音機「ニッポノホン」の誕生となります。
これが、後の「日本コロムビア」であり、今でも数多くの楽曲を世に送り出すレーベルとなっています。

  
左:ニッポノホン35号(明治43年、1910年発売) 金沢蓄音機館 館長ブログ
右:大正期のニッポノホン(レコード盤)の基本的デザイン 日本伝統音楽研究センター


ちなみに、この蓄音機の販売価格(当時25円~50円、グレードによって違う)を現代の物価に換算すると約100~200万円になります。いつの時代も、オーディオは高価なものなのですね。


有名な民生機としては、米国ビクター社の「クレデンザ」1920年代に作られています。この頃には、現代に近いホーン設計となっていますが、やはり「非電気増幅」なのが歴史を感じます。
 田中ピアノ調律所 CREDENZA

蓄音機については、「金沢蓄音器館」「福井県立こども歴史文化館」などで見ることができますので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
Phile-web「オーディオテクニカ寄贈の蓄音機群を「福井県立こども歴史文化館」で体験



「トーキー映画」(約100年前~)

映画に音が付いたのが、1920年代とされています。
それと同時期に「ラジオの受信」も歴史としてあるのですが、オーディオマニアにとしては映画の方が興味をそそるものがあります。

ここで「ウェスタン・エレクトリック(WE)」や「ベル研究所」、「ゼネラル・エレクトリック(GE)、RCA」という今でもビンテージオーディオで有名な会社が技術開発にあたっています。
そして、1926年の「ドン・ファン」公開と同時期に、ダイナミック型スピーカー(現代のスピーカーと同じ原理)の特許が出願されます。

その後の進化は非常に早く、1926年のWesternElectricの「555W」ドライバーと、「12A」ホーンという100Hz~5kHzを再生する組み合わせに始まり、
1931年には、低域にウーハーを組み込んだ2wayシステム("divided range"と呼ばれた)も作られ、50Hz~10kHz(-5dB)の周波数特性が得られるようになりました。

 

左:Western Electric 555W Driver, 12A Horn
右:Western Electric 555W Driverを使用した3wayスピーカー(1933年)
出展:the absolute sound's Illustrated History of High-End Audio Volume one LOUDSPEAKERS


これらの特徴として、出力数ワットの真空管アンプで劇場に音を響かせることに注力したためか、能率が100dB/W・m以上あったようです。

そして、1940年~1950年代になるとALTECの「Voice Of The Theater」シリーズが発売されます。大小様々なサイズがあるようですが、特に「A7」や「A5」は、現在でも愛用している人が多いと聞いています。


Twice told Records The Voice of the Theater

この辺の時代の機器は「ビンテージオーディオ」と呼ばれ、愛好家サークルやショップも各地にあります。
その中で、「EIFL(エイフル)」や「G.I.P. Labolatory」が活発な活動を行っており、それぞれ福島と山形に充実した試聴室があります。



「民生オーディオの初期」(約70年前~)

この時代になると、「私の子供の頃は~」と語れる方もいらっしゃるかもしれませんね。

海外であれば、「オートグラフ(TANNOY、1953年)」「パラゴン(JBL、1957年)」といった名機が発売されます。

  
左から、オートグラフ(TANNOY)、パラゴン(JBL) オーディオの足跡


日本は1945年の終戦を終え、1954年頃からの高度経済成長が始まる頃です。

この頃に、「PE-8(パイオニア、1951年)」「EAS-20PW09(テクニクス、1954年)」などが発売されます。1950年代は、スピーカーといえば自作するのが主流だったようです。

 
左から、PE-8(パイオニア)、EAS-20PW09(テクニクス)
PE-8「世界のオーディオ HiFiコンポーネントシリーズ-6<パイオニア>(1978年発行)」より
EAS-20PW09「季刊ステレオサウンド No.200 2016年秋号」より



1950年代後半における、オーディオメーカーの動きを示す文章として、浅野勇先生の文章があります。
「テレビの開局に伴って、受像機の需要が次第にエスカレートして行ったが、キットに依る自作熱の高まりにつれて、多くの音響メーカーも競って、テレビ・キットから完成品への生産を始めた。パイオニアもこの例外ではなく、音響部品よりも収益率の高いテレビ・ブームに乗る体制を取ったことがある。」

「(パイオニアが)大手家電メーカーのテレビ量産体制が整うにつれてブラウン管を持つ家電メーカーにはとても太刀打ちすべくもない状態を逸早く察知して、アッサリとテレビ部門から手を引いて、オーディオ・アンプに変換してしまった思い切りの良さと、オーディオ総合メーカーとして専念する決意を固めたのはオーディオ隆盛の世の中を見通した先見の明があった。」

「世界のオーディオ HiFiコンポーネントシリーズ-6<パイオニア>(1978年発行)」より


1960年頃からは、トランジスタ製品の量産化といった流れから、オーディオも真空管からトランジスタへと変わってきました。
スピーカーでいえば、小型ブックシェルフ型の「Technics1(テクニクス、1965年)」などが発売されるなど、この頃には現代のオーディオに近い楽しみ方になってきたのかと思います。

Technics1(テクニクス)

1963年には雑誌「Stereo」が、1966年には雑誌「StereoSound」が、それぞれ創刊します。

1957年頃には「セパレート・ステレオ」、1972年頃には「システム・コンポ」という言葉が使われはじめ、庶民的な一体型オーディオ(「家具調ステレオ」)と、マニアが求める『コンポーネントスタイル』の区別が出来上がっていった頃かと思います。

産業や文化を担う「電気音響」から、趣味としての「オーディオ」が創られたのがこの時期だったのではないでしょうか?



オーディオ黄金期(約50年前~)

トランジスタ技術の発展に伴い、オーディオは「高忠実度再生(HiFi再生)」に向けて邁進します。
そして、1970~80年代には国産オーディオが全盛期を迎え、「オーディオ黄金期」「オーディオブーム」と呼ばれるような時代に突入します。

この頃の資料を見ると、次のようなことが書いてあります。
「私自身初めに述べたように20kHz以上の周波数成分は耳に聴こえないから不必要だ、とは思っていないが、100kHzまでなければダメだとも思わない。
 しかしリニア・フェイズ方式のスピーカーシステムが近頃のように多くなってくると、これをスピーカー屋の狙い通りに働かせるためには、ツイーターのクロスオーバー周波数、かりにこれを5kHzとすると、その10倍ぐらいの周波数までは、全くフラットな条件でアンプからスピーカー・システムに送り込んでやらなければならない。さもないとリニアー・フェイズがあやしくなってしまう。」

「世界のオーディオ HiFiコンポーネントシリーズ-6<パイオニア>(1978年発行)」より

これはパイオニアのアンプ「M-25(1977年)」に関連した文章です。

M-25(パイオニア)

半導体パワーアンプの性能を誇示する内容として内容として、『90kHz/92kHz の近接2波混変調スペクトラム』や『ハイハットをスティックでたたいた時の音のスペクトラム(50kHzまで伸びている)』が掲載されています。

正直、昨今の「ハイレゾ」を伺わせるような記述で、この時代には技術的な議論はかなり進んでいたと感じています。


そして、ヤマハ「1000M(1974年)」を筆頭として、ダイヤトーン「DS-5000(1982年)」、パイオニア「EXCLUSIVE model2402(1983年)」などの著名なスピーカーが生まれます。

  
左から、1000M(ヤマハ)、DS-5000(ダイヤトーン)、EXCLUSIVE model2402(パイオニア) オーディオの足跡

これらの背景には、様々な測定・解析技術(「インパルス応答」「累積スペクトル」「レーザードップラー」など)、そして新素材を駆使してスピーカーを作りあげた技術者の熱意のほか、
大手電機メーカーがこぞって参入するほどのオーディオに対する「市場の熱」があったのではないかと思います。


技術的な成熟と、市場の過熱がもたらしたのが「オーディオ黄金期」なのかもしれません。
今では滅多にないような大型機が、凄い低価格で買えた…なんていう昔話があるのも、この時代です。

しかし、その勢いが「趣味のオーディオ」にとって一つの歪を生み出してしまったのではないか?とも私は感じています。

この章の最後には、アキュフェーズの社長 齊藤重正氏のインタビュー(2007年3月)を掲載します。
「私自身、前の会社で 5 万円のアンプを手掛けたことがあるのですが、競争相手が 2 ヶ月後に 4 万 9 千円の ものを作ってきました。すると、担当営業が 4 万 8 千円のものを作ってくれと駆け込んできたのです。これを続けてしまうと際限のない価格競争の泥沼に足をとられてしまいます。
趣味の製品というのはそういうことをやってはいけないと思っています。作り手がこだわって作り、より質の良いものを求めるからこそブランドの存在意義があるのです。」

帝国書院 | 高校の先生のページ 現場から 
「市場経済と高級嗜好品オーディオメーカー「アキュフェーズ」と市場経済 」




映像の時代 (約30年前~)

映像の時代と書きましたが、
これは、バブル崩壊後ともいえますね。

先の黄金期にあったいくつかのオーディオ専業メーカー・ブランドが消え、大手メーカーも製品展開を徐々に変化させていきます。

消費心理の変化、関心の移り変わり、住環境の変化…
決定的な原因はわかりませんが、少なくとも「先の時代のオーディオ」とは価値観が合わなくなってきたのでしょう。


そんななか、時代をリードしたのが『映像の進化』でした。

大きな転換点となったのが、「DVD」の始まり(1996年頃)でしょう。
LDやVHSに代わる映像メディアとして注目されたのですが、オーディオ業界にとってもいくつかの大きなインパクトがありました。
 
左から、DVD-A1(デノン)、AVC-A1SE(デノン)

そのうちの一つが、サラウンド再生
アナログレコード時代の4chステレオとは異なり、完全なディスクレート再生(各チャンネル間で、音の干渉がない)が可能になりました。

大手メーカー各社は、こぞって「トールボーイ型」のスピーカーや、5.1chスピーカーセットの開発にとりかかります。近所の電気屋チェーンであっても、その大半に「ホームシアターセット」の展示が各社別にあったのは記憶に残っています。

当初は、「オーディオとシアターは別」という考えも多くありましたが、次第にそれらは統合され区別のないものとなったように感じます。

その背景には、優秀な機材の存在、スピーカーであれば「B&W Nautilus804(1999年)」「ビクター SX-L7(2001年)」「パイオニア S-1EX(2005年)」などが、十分にピュアオーディオで通用するクオリティを持っていたことが大きかったかと思います。

  
左から、Nautilus804(B&W)、SX-L7(ビクター)、S-1EX(パイオニア)


そして、もう一つのインパクトが高品位オーディオメディアの誕生でしょう。

DVDオーディオ(1999年)や、SACD(1999年)といったオーディオ専用メディアが登場したのもこの時期です。

これらには、24bit/192kHzや、DSD(2.8MHz)といった、いわゆるハイレゾ形式が格納され、CDに代わる新しいメディアとして注目されました。


SCD-1(ソニー)
報道資料 スーパーオーディオCDプレーヤー『SCD-1』(1999年)


最近では「ブルーレイディスク(BD)」「4K ULTRA HDブルーレイ」が誕生し、高精細な映像はもちろん、高音質な非圧縮(可逆圧縮)での多チャンネル音声の収録が進んでいます。



ポータブル・PCオーディオの時代(10年前~)

一方で、オーディオの分野では、
時代の主流はポータブルPCオーディオが牽引しているといっても過言ではないでしょう。「ポタフェス」や「OTOTEN」などのオーディオショウも盛況となっています。

その一方で、アナログレコードの良さが見直され、新たに「アナログオーディオフェア」が誕生するなど、オーディオにおいても趣味の多様性が反映されていると感じています。




いかがでしたでしょうか。
オーディオの歴史150年を一気にふりかえってみました。具体的な機種名なども載せておいたので、検索したりすればより知識を深められるかもしれません。

そして、どの時代でも、
人々の憧れや、願望、そして生活のスタイルにマッチするようにオーディオが進化してきたようにも感じます。

次回は、そんな「生活のスタイル」と「オーディオ」についてお話ししようと思います。




  

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