AudiFill
TOP製品評論/情報イベントAudiFillについて連絡先
評論/情報高音質を目指すためのスピーカー技術 > 14.試聴曲2022

14. 試聴曲2022

 スピーカーの評価に使っている曲のリストです。これら全てを完璧に再生できるスピーカーである必要はなく、スピーカーの「個性」を把握するための曲目になっています。ある曲が再生できるスピーカーは、他の曲が再生しにくくなるなど、矛盾をもたせた選曲ですので、あらかじめご了承ください。


<目次> ~クリックで、各楽曲の解説までスクロールします~
1.「Desperado」(藤田恵美、アルバム「camomile Best Audio」より)
2.「Fly Me To The Moon」(神田めぐみ、アルバム「モナリザ」より)
3.「Beautiful World」(宇多田ヒカル、ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 OSTより)

4.「片翼のイカロス」(アニメ H2O、榊原ゆい)
5.「未来の僕らは知っているよ」(アニメ ラブライブ!サンシャイン!!、Aqours)
6.「僕らの走ってきた道は…」(アニメ ラブライブ!サンシャイン!!、Aqours)

7.「ドヴォルザーク: 交響曲 第9番「新世界より」」(マーツァル指揮、チェコ・フィル)
8.「LeConcert Royal de la nuit: Ouverture」(Ensemble Correspondances, 2015)

9.「竜」(手嶌葵、アルバム「ゲド戦記歌集」)
10.「NAVRAS」(マトリックスレボリューションズOSTより)

11.「恋のアランフェス」(ゲリーカー)
12.「ドロイドの侵攻~ダース・モールの登場」(スター・ウォーズ エピソード I OSTより)
13.「焔の火 Honoka (Live) 」(鼓童)



「Desperado」(藤田恵美)の聴きどころ

 アルバム「camomile Best Audio」は、2007年に発売され、オーディオマニアの間で人気を博したアルバムです。当時は、SACDによる5.1chマルチチャンネルが最先端であり、SONYの金井隆氏(かないまる氏)の協力もあり、立体音響を考慮したリマスタリングがなされました。

「カモミール・ベスト マルチチャンネル・リミックス・プロジェクト」
kanaimaru.com/0612EMI/0f.htm
(かないまる氏のwebページ)

   アルバム「camomile Best Audio

 「Desperado」は、このアルバムの6曲目。冒頭、静かにピアノが伴奏をはじめ、そこからボーカルが入ってくる構成です。
 まず、このピアノが厄介。やや鮮やかさのある音色のため、一歩間違えると電子ピアノのように鳴ってしまいます。実際にどのようなピアノなのかは知りませんが、特徴的な音色であることは確かだと思います。
 そして、このピアノの「ゴトッ」というペダル音が出せるかどうかは、小型スピーカーにっとてはかなりの難関になります。周波数を見ると35Hz付近にピーク(下図参照)が確認できますが、感覚的にはそれほど低くない低音、たとえば100~150Hz付近の解像度が問われるようです。その一方で、ペダル音が目立ちすぎてもNG。過去には大型スピーカーでペダル音が目立ちすぎて、楽曲の雰囲気が台無しになってしまったこともありました。

   

   
   <37Hz付近に、ペダル音に由来する低音がある>


 この楽曲、先にも書いたようにリマスタリングされています。元の音源が古いことによるノイズ感も、(オーディオ試聴としての)聴きどころの一つになっています。
 分かりやすいのが、楽曲冒頭。ピアノだけのときはSN比は良好なのですが、ボーカルが入るタイミング(0:15~)で「サー」という背景ノイズも同時に入ってきます。これは、極めて微小信号再現性に優れるシステムでのみ聴くことができ、例えば励磁型の磁石をもつ高能率スピーカーなどで過去に聴くことができました。

    
    <0:15~頃、ボーカルが入る手前で、ノイズが聴こえる>


 そして、藤田恵美さんの美しいボーカルに聴き惚れているとまた難所が訪れます。0:50~のサビの部分での声の張り上げで、声が硬質にならないか、も重要なチェックポイントです。
 もし中高域にヒステリックな共振があると、この部分で硬い音になってしまいます。先ほど背景ノイズの話をしましたが、このノイズを聴こうとしてボリュームを上げすぎると、サビの部分で耳をつんざくボーカルに悩まされることになるので注意が必要です。大音量にすることで分かる点もあるかもしれませんが、私はスピーカー試聴は適度な音量で行うべきだと考えています。

 この曲はボーカルのサ行が目立つ録音ではありませんが、高域に強調感のあるシステムはこの曲でもすぐに分かります。万が一、楽曲のいたるところで「サ行」が目立つようであれば、より厳しいソース(例えば、アニソン)を聴くのは難しいシステムといえるかもしれません。

  
   <5~15kHzが、ボーカルのサ行に該当する。>



 ★まとめ★「Desperado」のオーディオ的な聴きどころ
  ・ピアノの音色、ペダル音(冒頭~)
  ・背景ノイズ(0:15~)
  ・声の質感、硬質にならないか。(0:50~)



 こうしてみると、序盤2分で数多くの項目を理解できる良質な試聴曲であること分かります。初見で聴く限りでは、よくある優秀録音の女性ボーカル曲なので、オーディオショップの店頭で鳴らす心理的なハードル(?)が低いのも嬉しいポイントです。


  目次へ戻る


「Fly Me To The Moon」(神田めぐみ)の聴きどころ

 この曲は、トロンボーン奏者の神田めぐみ氏の演奏。公式webサイトのプロフィールを見ると、輝かしい経歴に驚かされます。

 アルバム「モナリザ
 神田 めぐみ(トロンボーン) | プロフィール | ビクターエンタテインメント

 アルバム「モナリザ」は、2004年に発売されたCD。発売当初から聴き続けていますが、未だに飽きずに聴くことができる名盤だと思っています。

 「Fly Me To The Moon」は、2曲目。有名な曲なので、聴き心地も実に良いのが嬉しいところ。冒頭、ウッドベースのソロから始まり、オーディオ的な醍醐味を満喫できます。

  
  <ウッドベースが、小気味よく音階を刻む。基音は50~100Hz前後。)



 金管楽器は、基音こそ中音域に集中していますが、倍音成分が非常に豊富であり、音圧も大きい。そのため、生々しく再生するにはスピーカーやアンプの能力が問われるのです。

  

   <本楽曲におけるトロンボーンの倍音成分>

 トロンボーンは、音色をつかさどる「倍音」が1~5kHzという最も耳が敏感な帯域にあり、再生系の差で音色の変化が出やすいのが特徴です。もしトローンボーンの音色に違和感を感じたらシステムに何かしらの問題があると考えるようにしています。

 さらに鳴らすのが難しいところとして、サビの部分でのトロンボーンの吹け上がり方があります。音が飽和するような響きはNGですが、一方で萎んだ表情であってもいけません。どちらかというと、音が飽和して単調かつ煩い音色になってしまいがちなので、そこは注意を払っておきたいところ。もし問題があれば、スピーカーの振動の整えるなどの工夫して、音を調整していきたいところです。

 後半には、ドラムソロも入ってくるが、のんびり聴くぐらい気分ならそれほど再生は難しくない楽曲です。しかし、一定以上の再生品質を求めると、途端に難易度が上がります。ベース、ドラム、ピアノ、トロンボーンの楽器が、どういった位置関係にあって、どのように体を動かして演奏をしているか。それが手に伝わるようなリアリティで再生出来たら、相当ハイレベルな装置だと思います。
 幸いにも、このアルバムは国内有数の品質を誇るビクタースタジオの製作であり、またオーディオ雑誌の優秀録音評でも高く評価されていた。さらには、空間や位相情報を大切にするオーナーのシステムで再生したときには、しっかりとした音場情報が入っていることも確認できています。この音源には私もまだ聴けていない音が入っている余地が十分にあると考えています。


 ★まとめ★「Fly Me To The Moon」のオーディオ的な聴きどころ
  ・トローンボーンの音色
  ・サビの部分でのトローンボーンの音色(0:50~0:56)



 オーディオ試聴ではこの1曲がメインですが、ぜひ他の曲もあわせてアルバムで聴いていただきたいと思います。その時は、肩の力を抜いて、トロンボーンとスタンダードナンバーJazzの魅力に浸って頂くのが良いでしょう。


  目次へ戻る


「Beautiful World」(宇多田ヒカル)の聴きどころ

 J-POPSで非常に有名な宇多田ヒカルさんの楽曲です。私が聴いているのは、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」オリジナルサウンドトラックの31曲目に収録されている曲「Beautifil World」です。

   「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」オリジナルサウンドトラック


 この曲の聴きどころは、ずばり低音です。冒頭の「もしも願い一つだけ叶うなら~」の部分の周波数特性を下に示します。
 注目する所は、水色で囲った部分です。40Hz付近でリズムを刻むバスドラムと、40~90Hzを行き来するベースギターの低音の再現が、オーディオ的なチェックポイントになります。

 
 <「Beautifil World」の序盤(0:10~)の低音>

 まずは、40Hzのバスドラムの低音が、時間軸の正確さをもって聴かせることができるかです。共振で低音を増幅させるバスレフ型のスピーカーは、この帯域が甘口になってしまうことが多々あります。この曲では、40Hzの低音を、しっかりとしたコントラスト(陰影)をもって聴かせることができるかを確認します。

 さらに難易度が高い所としては、ベースギターの音が下がった場所(赤枠)があります。ドラムの低音とベースギターが干渉を起こし、少し不規則な低音になることが読み取れます。こうした40Hz前後の低音の細かな描写ができるかは、重低音の解像度が問われるところです。


 この低い帯域を這うベースギターの音階が分かりやすい場所は、0:58~の「寝ても覚めても少年マンガ 夢見てばっか~」のところでしょうか。

 
 <「Beautifil World」の低音(0:58~)。キックドラム(黄緑)、ベースギター(水色)>


 小型スピーカーでは、まず40Hzの存在感を十分に出ているかを確認します。大型スピーカーで聴いたときのバランスをしっかり頭に入れてから聴くことで、そのスピーカーのおおよその低音再生特性をつかむことができます。

  
   <ソリッドで、分厚い低音が特徴の周波数特性>

 その一方で、大型スピーカーでは、40Hzを鳴らすことはそれほど困難ではありません。しかしながら、この40Hzの音域は、ウーハーとバスレフダクトの間の音域に位置することが多く、稀に解像度が著しく低下することがあるので注意が必要です。

 可聴帯域の下限が20Hzなので、40Hzの低音再生はそこまで難しくないと思う方も多いかもしれませんが、単に「鳴る」だけか、それとも「質感を吟味しながら聴ける」レベルに達しているかでは雲泥の差があります。
 20Hzを出すことより、40Hzを高解像度で鳴らすことの方が、音楽鑑賞の満足度にとっては遥かに重要だと感じています。


 この曲の中高音の再生は、低音ほど難しくありませんが、電子音源ならではの立ち上がりの良い音がしっかり出せるかどうかは、確認をしておきたいところです。先の周波数特性のグラフを見ると、7kHz付近に電子楽器のピークがあり、この辺を低歪みで高分解能に鳴らすことができると、曲の爽快感を際立たせてくれます。



 ★まとめ★「Beautiful World」のオーディオ的な聴きどころ
  ・ドラムとベースギターの絡み。40Hz付近の低音の解像度
  ・電子楽器の音の爽快感



 宇多田ヒカルさんの楽曲は、どれもオーディオ的にチャレンジングであることで有名です。もし手持ちの楽曲があったら、改めて聴いてみると良いでしょう。


  目次へ戻る


「片翼のイカロス」(榊原ゆい)の聴きどころ

 先のBeautifil Worldに続き、アニメソング(アニソン)からの選曲です。2008年に放送されたアニメ「H2O -FOOTPRINTS IN THE SAND-(以下H2O)」のオープニング曲です。

   「片翼のイカロス

 歌うのは榊原ゆいさん。パワーと透明感のある歌声が素晴らしいです。作詞作曲は、Elements Gardenの代表 上松範康さん。水樹奈々さんの「ETERNAL BLAZE」や「深愛」を手がけ、「戦姫絶唱シンフォギア」の原作者でもあります。楽曲を支える布陣は、まさにレジェンド級。生まれるべくして生まれた神曲だと思っています。

 この楽曲が登場した2008年は、「ハイレゾ」という言葉が登場する2014年より前の時代になります。デジタルによるコンプレッサ等の加工が多用され、音質にもその影響が色濃く残っています。
 こうした人為的な加工が前面にくる録音であっても、どうしても上手く鳴らしたいという想いがあります。楽曲に罪はありません。録音を嘆いても、音は良くなりません。当時の文化や意図を最大限に尊重し、埋もれてしまった音を丹念に解きほぐすことが、オーディオ機器の真価だと考えています。

 アニソン(※以下、加工が多用された録音のアニソン)を愛する私は、このような音源の再生に10年以上向き合ってきました。そのなかでは「音源に入っていない音は再生できない」と簡単に諦める人も多く見てきました。諦めて優秀録音だけを聴くことに徹した方が賢い道かもしれません。しかし、私は諦めることができませんでした。アニソンが好きなのです。アニソンは一曲一曲が思い入れの塊です。それがどんな録音であっても、代わりの曲を探すことはできないのです。

 様々な試行錯誤を重ねる中で、今まで悪い音だと思っていた音源から、実に生々しい音を引き出せることが分かってきました。そうした経験から、「音源に入っていない」のではなく「加工に隠れて生音が見えにくくなっているだけ」だという結論に至っています。

 スピーカーの解像度が低ければ、加工と生音の区別ができません。スピーカーが歪んでいれば、加工に引っ張られて生音も歪みます。スピーカーの低音が制御できていなければ、ボワボワの低音になります。スピーカーの高音がピーキであれば、ボーカルのサ行は刺さります。非常にシンプルな話です。
 しかし、生半可なオーディオでは、これらの壁を超えることができません。厄介なのは、他のジャンル(特に生楽器を主体とした音楽)ではこれらの再生系の欠点が目立たないこともあるのに対し、アニソンではそうした融通が利かないという点です。そのため、「他の曲は上手く鳴るのに、アニソンだけ悪い音で鳴る…」という現象が起こります。もし再生装置に欠点があれば、アニソンではそのまま音に現れます。それがアニソン再生の難しさなのです。
 もちろん、再生環境を良くしても、加工が無くなるわけではありません。加工が多用された音源の再生のあるべき姿は、「加工の本来の意図がハッキリと感じ取れるようになり、音楽としてより魅力的に聴こえるようになる」ことだと思っています。

 誤解を生まないようにしたいので追記しますが、アニソンで判別しやすい再生装置の欠点と、生楽器で判別しやすい再生装置の欠点は違う場所にあります。そのため、アニソンを聴かない人にとっては、アニソンを試聴曲にする理由は殆どありません。
 また、アニソンで試聴をすることの最大の弱点は、生演奏というリファレンス(標準)が存在しないことです。アニソンだけでは、音のバランスや質感が大きく崩れても気付かないことがあります。このwebページの試聴曲リストには様々なジャンルの音楽が入っていますが、それは単一の音楽ジャンルで現れる「盲点」を可能な限り避けるためです。


 前置きが長くなりましたが、この曲の聴きどころは、やはりボーカルです。
 冒頭の歌い出し「無くした過去、飛べない空~」の部分の周波数特性を、以下に示します。サ行に由来する10kHzを中心とした大きな盛り上がりが確認されます。

  
   <「片翼のイカロス」の冒頭(0:00~0:05)。10kHz付近にサ行。>

 コンプレッサを効かせた録音ならではのサ行の強調感ですが、これをいかに違和感なく聴かせるかを確認します。高域の歪感を確認するのにはもってこいの音源です。例えば、シンバルを目立たせようとして、不用意に高音を持ち上げたシステムでは、この曲を上手く再生するのは難しいかもしれません。
 また、中高域に歪みが多い場合も、ボーカルがガサガサした質感になってしまいます。ボーカルは力強くありながら、肉声を感じさせる暖かさを伴なって聴こえるべきです。


 そして、0:18頃からは、重低音が入ってきます。37Hzの極太のベースです。コンプレッサを聴かせると、高音は鋭くなりますが、同時に低音の量感も上がるので、一般的には厚みのある音に仕上がります。

  
   <「片翼のイカロス」の0:18頃~。37Hzのベースギターが入る。>

 この37Hzが出ていないと、次は倍音の74Hzまで音圧がありません。74Hzまでしか再生できないスピーカーでは、この曲の深みのある表現を感じにくくなってしまいます。十分な音圧で37Hzを再生できる能力をこの曲は要求します。

  
   <「片翼のイカロス」の0:18頃~。37Hzの低音は、断続的に入ってくる。>


 重低音の表現は、音楽的にも非常に重要です。例えば、サビの部分の後半(1:17~1:23)では、一度ベースの音階が下がって、また上がる表現があります。

  
  <「片翼のイカロス」のサビの後半(1:17~1:23)。>

 この辺の重低音が十分な量感をもって聴けると、サビのラストを飾る盛り上がり感を存分に表現できるほか、ライヴに匹敵する高揚感を感じることができます。広大なライヴ会場に響く音の再現は、こうした重低音を明快に再生することが一つの条件になると感じています。


 ★まとめ★「片翼のイカロス」のオーディオ的な聴きどころ
  ・ボーカルの自然さ(サ行、肉声感)
  ・37Hzの重低音再生


 このように、オーディオチェックとして魅力的な曲ですが、それ以上に楽曲としての素晴らしさがあります。神原ゆいさんの曲に乗せて、アニメ「H2O」を見た時の当時の記憶が蘇ります。オーディオチェックをしていることを忘れ、感情の高まりをもった高揚感に包まれることが、この曲の再生の到達点であると思っています。


  目次へ戻る


「未来の僕らは知ってるよ」(Aqours)の聴きどころ

 こちらは2017年に放送されたアニメ「ラブライブ!サンシャイン!! (2期)」のオープニング曲です。ストーリーの盛り上がりもある2期を支えた名曲です。

   「片翼のイカロス

 歌うのはAqoursの9人。それぞれの個性のある歌声と、サビで声を合わせたときの厚みも聴きどころの一つです。

 音源はe-onkyoで購入したハイレゾ音源。ハイレゾならではの細やかな音が入っている一方で、音像が奥に引っ込んでしまわないように再生することが求められます。一つ一つの音が繊細なのは、2020年前後のアニソン再生の難しさだといえます。

 そして、Aqoursならではの低音感も大切にしたいところ。低音の量感と解像度が問われます。周波数特性を見ると、50~150Hzに盛り上がりがあり、厚みのあるサウンドを演出しています。

   
   <「未来の僕らは知ってるよ」の0:30~1:00頃の周波数特性。厚みのある低音が特徴。>


 低音というと、帯域をどこまで伸ばせるかに注目しがちですが、それ以上に音楽の充実感を演出するのは100~150Hz付近だったりします。この帯域を、しっかりとした解像度とダイナミックさをもって表現するには、中低域の付帯音がしっかりと抑制されていることが重要です。
 スピーカーエンクロージュアの強度や制振や、ウーハーユニットの性能、さらにはケーブルやインシュレーターの効果など、総合的に問われてきます。

 音の一つ一つが、解像度と密度感をもって聴かせられるかも重要なポイントです。イヤホンでは容易なのですが、スピーカー再生では曖昧になってしまいがちなので、確認をしておきたいところです。
 音の一つ一つの描写力は、スピーカーだけでなく上流機器や各種アクセサリー、ルームチューニングでも変わってくるため、システムの総合力が重要になります。スピーカーでいえば、エンクロージュア(箱)やユニットの振動がしっかり制御できているかなどが効いてくると考えています。


 ★まとめ★「未来の僕らは知ってるよ」のオーディオ的な聴きどころ
  ・ボーカルの存在感
  ・厚みのある低音再生
  ・音の一つ一つの解像度と密度感



  目次へ戻る



「僕らの走ってきた道は…」(Aqours)の聴きどころ

 同じくアニメ「ラブライブ!サンシャイン!! 」から、劇場版の曲「僕らの走ってきた道は...」をピックアップしました。試聴に使っているのはサウンドトラックに収録されている音源です。

   「Sailing to the Rainbow

 ちょうど、この曲の部分が無料公開されているのでYoutube動画を貼っておきます。生演奏でなくても、その曲の内容や背景を理解することは試聴において大切だったりします。

  


 冒頭は、ピアノから静かに入ってきます。そして、ヒロインの千歌のソロボーカルが入ってきます。この辺は、アニソンとしては驚くほど再生がしやすいので、システムで殆ど違いが出ません。

 1:05から1:25にかけて、オーケストラをイメージするような厚みのある低音が入ってきます。(※Youtubeでは1:38~1:59です)
 複数の楽器をうまく組み合わせている厚みのある低音が聴きどころになってきます。40Hzまでしっかりとした音圧が入っており、70~100Hzの低音域にも十分な音圧あります。

   
    1:20頃の周波数特性。 40Hzまで厚みのある低音が入っている。

 私の感覚では、この低音が「沼津の海の波の音」に聴こえることがあります。アニメの舞台になった内浦は穏やかな海なのですが、沼津の市街地を通って太平洋を望むところに行くと、こうした荒々しい波の音を聴くことができます。TV版の劇中でも、梨子が「海の音を聴ければ、何かが変わるのかな」と言って内浦を訪れる場面に象徴されるように、海と本作は切っても切り離せない関係にあるのです。
 ここで表現されるべきは、大海原から押し寄せるエネルギーを感じる波です。しっかりと40Hzまでの帯域が高解像度で確保できているかどうかが試されるのです。


 他には、序盤と中盤以降で大きく楽曲の構成が変わるところにも注目です。序盤は比較的静かな構成で、ボーカルの人数も限られています。

 
 0:38頃の波形  比較的静かな楽曲構成

 楽曲が進むにつれ、徐々に音数が多くなっていきます。最初のピークは、1:30頃の1年生と2年生のパートです。この段階ではまだ6人での歌唱ですが、情報量はだいぶ多くなり、音が破綻するシステムが多いのです。

 
 1:43頃の波形  音数も音圧もかなり上がってくる。

 アニソンが再生できるか否かは、こうした音数への対応力だと考えています。優秀録音では良くても、アニソンが鳴らせないシステムは、概してここで躓きます。
 私の考える原因としては、解像度を出そうとして不要な共振(=歪)を拾っていることだと思います。少々の歪はスパイスになり、解像度が上がったり音像をクリアにする効果があります。しかし、アニソンのように音数が多くコンプレッサを効かせた音源(=歪に近い波形)を鳴らすと、歪と楽音の区別が曖昧になり「騒がしい・平坦」という印象につながるのです。
 大切なのは、歪をしっかりと抑えることです。しかし、ダンピング材を多用した歪の抑制は、アニソンのライブ感の低下につながるので好ましくありません。共振や付帯音の原因を突き止め一つづつ対策を講じていく、堅実で正統的なプロセスこそがアニソン再生のコツだと考えています。


 曲の中盤、2:48頃からは、3年生も入って9人で歌うサビのパートになります。先ほどの6人パートが上手く再生出来ていれば、ここは問題なく再生できることが多いです。
 あえて言うのであれば、6人と9人の声の厚みの差の表現です。Aqoursの3年生が卒業していく、という「変化」がこの劇場版の一つのテーマになっているのですが、そこでクローズアップされるのが6人でどうやっていくか、ということ。楽曲とストーリーが深くリンクしているアニソン再生として、この表現が疎かになってはいけないのです。
 幸いにも、録音技術と歌唱の支えもあって6人パートでも音が寂しくならないように仕上がっています。ただ、どちらが上かではなくて、6人の良さと9人の良さは、それぞれ描き分けがなされるべきだと考えます。
 簡単に説明してしまうと、9人パートでは3年生の落ち着いた声が入ることにより音の安定感が増します。その一方で、(音圧をそろえるためには仕方がないにせよ)一人一人の声の質感やエネルギー感は抑制気味になるので、9人ならではの声量感をしっかりと引き出すことが勝負になってきます。


 ★まとめ★「僕らの走ってきた道は...」のオーディオ的な聴きどころ
  ・波の音のような低音(40Hz~)
  ・音数が増えた時の対応力
  ・9人構成での描写力



  目次へ戻る



「ドヴォルザーク: 交響曲 第9番「新世界より」」の聴きどころ

 名曲「新世界より」の第四楽章を試聴曲に入れています。クラシック音楽ならではの聴きどころを紹介します。

  ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」、ノヴァーク:スロヴァキア組曲

 クラシック音楽なので、様々な演奏があって迷ったのですが、一番好きなズデニェク・マーツァル指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏のものを選びました。収録は、プラハ「芸術家の家」ドヴォルザークホール。まさしく、お膝元といえる組み合わせだと思います。

 レーベルは、EXTON(オクタヴィアレコード)。高音質マルチチャンネルSACDを数多く輩出しているレーベルで、やや温かみのある音質が特徴です。また、メインスタジオのEXTON Studio TOKYOには、数多くの民生機が使われています。

  
  EXTON Studio TOKYO


 第四楽章の序盤、印象的な弦楽器の旋律から始まります。そこでは、65Hz付近からの厚みのある低音を聴くことができます。周波数特性は0:05頃のものを示しましたが、楽曲全体を通してしっかりとしたコクと厚みのある音が表現できるかが聴きどころになります。

  
   0:05頃の周波数特性。 序盤の低弦。

 周波数帯域としては、そこまで低い音ではないのですが、中高音が上がりやすい小型スピーカーではなかなかの難題です。また、ゆったりとした落ち着いた雰囲気、さらには情感や優雅さを表現するには、十分に歪が抑えられていることや、微細信号の再現が上手くいっていることも必要になります。


  
    0:33頃の周波数特性。 金管楽器が入ってくる

 金管楽器の高音がどう出るかは、一曲目のJAZZでも紹介しましたが、こちらはコンサートホールでの録音です。JAZZとは異なり、楽器とマイクの間にかなりの距離があります。
 距離を感じさせながら、金管らしくまっすぐに聴こえてくるかがポイントです。音が上ずってしまったり、鈍ってしまったり、曇ってしまったりと、なかなか上手く鳴らせないのがこの新世界の金管です。高音域の音圧をしっかりと制御し、不要な歪を取り除いていくことが求められます。

 大編成のオーケストラの再生で必要なのは、雄大さです。ゆったりとしたコンサートホールの空気感を表現できるかは大切にしたいところです。解像度を上げようとして、ハイ上がりになってしまうと、なかなか上手くいきません。(グランカッサやパイプオルガンを除けば)周波数帯域としてはそれほど広くありませんが、伝統と優美さを感じさせるオーケストラのサウンドを堪能するには、スピーカーには高い能力が求められます。



 ★まとめ★「交響曲第9番「新世界より」」のオーディオ的な聴きどころ
  ・コクと厚みのある音の表現
  ・ステージ後方から聴こえる金管の音
  ・コンサートホールの空気感



  目次へ戻る




「LeConcert Royal de la nuit: Ouverture」の聴きどころ

 聞き慣れない題名だと思いますが、フランスのバレエの楽曲です。邦題では「夜のコンセール・ロワイヤル」と訳されます。CDは2枚組で高価ですが、Spotifyをはじめとしたストリーミングサービスにもあるので、ぜひ聴いてみて頂きたい楽曲です。

  LeConcert Royal de la nuit
  ※仏Harmonia Mundiのページへのリンク
 
 レーベルは、フランスのHarmonia Mundi(ハルモニアムンディ)。長岡鉄男氏の「外盤A級セレクション」にも度々登場した高音質レーベルです。


 試聴曲のOuverture(序曲)では、チェンバロを交えた小編成の管弦楽が展開します。周波数特性を見ても、100Hz~2kHzに基音のエネルギーが集中しており、とりたててワイドレンジな音源ではありません。

  
  0:58頃の周波数特性 多くの楽器が中音域に集まっている。

 しかし、そのナローレンジであることが再生の難しさにも繋がっています。同じ中音域に、弦楽器と管楽器、さらには残響成分であるホールトーンが重なっており、描き分けを難しくしています。また、弦楽器は倍音成分が豊かで12kHz付近にひとつのピークが生じています。楽器の音色を描くためには、高音域のクオリティも大切になってきます。

 中高域は、バイオリンと管楽器が前面に出てきますが、繊細なチェンバロも静かに入っています。中高域が歪っぽいとチェンバロの良さが感じられにくくなってしまいます。
 クラシック音楽なので、一つ一つの楽器の豊かで上質な風合いを描いていきたいところ。ワイドレンジな音源ではなくても、かなり高い再生能力が求められるのです。歪が少ないことはもちろん、音の純度を極限まで高くしていくことが再生のカギになると考えています。



 ★まとめ★「LeConcert Royal de la nuit」のオーディオ的な聴きどころ
  ・中音域の描き分け
  ・一つ一つの楽器の質感
  ・音の純度の高さ



  目次へ戻る






現在作成中



評論/情報高音質を目指すためのスピーカー技術 > 14.試聴曲2022

Copyright © 2016 AudiFill All Rights Reserced.