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16. ルームアコースティック01(定在波とスピーカー設置)

 ここでは、ルームアコースティックについて実例とシミュレーションを交えながら説明していきます。

 <目次>
 ・ルームアコースティックが大切な理由
 ・定在波とは
 ・部屋の形状と、現状の周波数特性
 ・シミュレーションによる現状確認
 ・長辺設置(横長使い)のシミュレーション その1
 ・長辺設置(横長使い)のシミュレーション その2
 ・斜め設置のシミュレーション
 ・新しいスピーカー設置の実践と、周波数特性の測定
 ・音が良いのは、縦使い?、それとも横使い?
 ・縦使い、横使いのルームチューニング法
 ・まとめ




ルームアコースティックが大切な理由

 私たちがオーディオを聴くとき、直接耳に届く音だけでなく、部屋の中を何度も反射してから耳に入る音(残響音)も含めて聴いています。

   AudioScience by Floyd E. Toole, Ph.Dより

 こうした反射を経ても音が変化しないことが理想です。ただ、現実の部屋である限りはこの反射音から逃れることができないため、より良い音で聴くには音響的な調整(=ルームアコースティックの調整)が大切になります。


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定在波とは

 部屋の中の空気は6面の壁や床に囲われており、その中で波打つような挙動を示します。学校の理科の時間でならった「気柱共鳴」に相当する現象が起こります。

  
  【参考】リスニングルームで音が消える!?定在波の正体とは。

 共鳴の腹にあたる部分では音が小さくなる一方で、共鳴の節にあたる部分では音は増幅されて聴こえます。

 これはとても厄介な問題で、スピーカーからの特性を大きく乱す原因になるのです。例えば、こちらに示すのはスピーカー直近(距離20cm)のところで測定した周波数特性と、リスニングポジション(距離170cm)のところで測定した周波数特性です。
 
  
    スピーカー直近での特性(距離20cm)

  
    リスニングポジションでの特性(距離170cm、ステレオ再生)

 スピーカー直近での特性(上図)は比較的綺麗ですが、リスニングポジションでの測定結果(下図)は凹凸が目立ちます。特に青線で囲った300Hz以下の低音域では、定在波の影響を受けることによって生じた大きな特性の乱れがあります。

 このように、低音域はとりわけ、定在波の影響を受けやすいことが知られています。中高音域は、音の拡散により凹凸が少なくなるのですが、低音域は部屋の共鳴をそのまま受けてしまうため問題が露見しやすいのです。

 定在波の影響を受ける低音域と、比較的影響を受けにくい中高音域の境(遷移周波数、Transition frequency)がどこにあるかは諸説あるようですが、低音域の特性を改善するには部屋の寸法に基づく定在波の影響をしっかりと把握することが大切です。


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部屋の形状と、現状の周波数特性

 先に説明したように、低音の周波数特性を改善するには、部屋の寸法に基づく定在波を把握する必要があります。ここでは私の部屋を例に、部屋の形状と周波数特性を見ていこうと思います。

 
 
 部屋はアパートの1室。広さは6畳ですが、クローゼット(図中、右下)やドアは開けていることが多く、特性から見ても少し広めの音響空間(長辺は444cm)として機能しているようです。

 
 <入口から見る、オーディオルーム全景>

 この部屋には普段使っているパソコンやスピーカー製作に必要な道具が多数あるため、スピーカーを窓際に設置し、そこから0.9~1.7m程度離れた場所をリスニングポジションにしていました。

 
 <リスニングポジションでの見え方>

 リスニングポジションでの周波数特性は、次のようになります。以下に示す測定結果では、リスニングポジションにマイクを設置し、スピーカーから再生したサインスイープ信号を測定したものです。

① 
壁から225cm
(スピーカーから約170cm)
離れた場所

のんびり聴くときのリスニングポジション
 
② 
壁から190cm
(スピーカーから約135cm)
離れた場所

しっかり聴くときのリスニングポジション
 
③ 
壁から140cm
(スピーカーから約85cm)
離れた場所

ニアフィールド試聴のリスニングポジション
 
 (参考)
スピーカー正面20cm特性

反射音の影響を含まない「スピーカーの裸特性」

※モノラル測定
 


 既に特性を見ながら吸音材などの音響アイテムなどを導入して調整していたので、①や②はある程度フラットな特性になっています。それでも、長辺方向の定在波に由来する38Hzのピークが大きいことは、聴感上も問題になっていました。一見ワイドレンジに見えますが、バスドラムの圧迫感が強すぎたりと少々扱いが難しい音になっていました。
 ③は、壁からの反射音の影響から逃れるために「ニアフィールドリスニング」としていましたが、いざ測定をしてみると想像以上に38Hzや100Hz付近に定在波の影響を受けていることが分かりました。

 一般的なオーディオ趣味であれば、この38Hzの音域が盛り上がりを使って、まるでスピーカーの低音再生能力が拡大されたような効果を狙うこともできるのですが、スピーカー開発をする立場上、スピーカーの裸特性とリスニングポジションでの特性が同じであることを目指したいところです。


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シミュレーションによる現状確認

 定在波は上下左右に展開するため、その挙動を把握するのは簡単ではありません。しかしながら、定在波をシミュレーションできる便利な「Stndwave2 Ver.0.9」があります。2006年に作られたやや古いソフトウェアですが、日本のオーディオルーム研究の第一人者である石井伸一郎氏も認めるソフトウェアで、著書「リスニングルームの音響学」でもその有用性が述べられています。

 ここでは、シミュレーション結果と実測を比較いこうと思います。まずは、一番よく試聴で使っていた「リスニングポジション②」の特性をソフトウェアで再現してみます。

 ソフトウェアの画面では、黒と赤の点がスピーカー。水色の点がリスニングポジションを示しています。表示される周波数特性を20~500Hzの範囲のみに設定しているので、実測グラフとの見比べの際は注意が必要です。

シミュレーション
壁から190cm
  
実測② 
壁から190cm
 

 シミュレーションで上手く再現できたところ:
 38Hzの凸、70~150Hzのブロードな凹、150~200Hzの凸

 シミュレーションで再現できなかったところ:
 (実測の)60Hzの凸、78Hzの凹、100Hzの凸


 こうして比較すると、良くも悪くも実用十分な精度はありそうです。いくつかのピークディップは再現できませんでしたが、私の部屋が正確な直方体でなく変形型であることがシミュレーションを難しくしているのかもしれません。


 次に、ニアフィールド試聴で使っていた「リスニングポジション③」についても同様に、シミュレーションと実測の特性を比較してみます。

シミュレーション
壁から140cm
  
実測③ 
壁から140cm
 

 シミュレーションで上手く再現できたところ:
 38Hzの凸、150Hzの凸

 シミュレーションで再現できなかったところ:
 (実測の)100Hzの小さな凸


 先ほどと同様に、大きな凸凹は上手く再現できましたが、完全に一致するというわけではなさそうです。双方とも、シミュレーションでは大きな凹が現れたところに、実測では小さな凸が表れるといった差が確認できました。
 シミュレーションで今一つの特性が出ても、実際は家具や部屋の構造に基づく外乱要素が加わるため、そこまで悪い特性にはならないようです。


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長辺設置(横長使い)のシミュレーション その1

 先にも紹介した石井ルームで有名な石井伸一郎氏は2つの理由からスピーカーの長辺設置(部屋の横長使い)を推奨しています。一つは低域の伝送特性の良さ。もう一つは音場感の良さとのこと。

 前者は、著書「リスニングルームの音響学」にその理由が詳しく書いてありますが、ここで簡単に説明します。もし部屋が理想的な寸法比(12畳であれば天井高は3.9m!)であればどこにスピーカーを設置しても好ましい特性が得られるのですが、より天井高が低い場合は概して低音域の特性にディップが生じるという問題が生じます。しかし、横長使いにしてリスニングポジションを壁際にすることで、その低域のディップを緩和させることができるのです。こうした伝送特性の良さから横長使いが好ましいと石井氏は主張しています。

 後者は、音が壁で反射するとスピーカーからの音が鏡像のように広がるため、横長使いのほうが音場感が良くなるというのです。以下に図を示しますが、横長使いのほうが反射によるスピーカーの鏡像位置(疑似的なサラウンド)がより真円に近くなるのです。


 「リスニングルームの音響学」 図11-3-7より


 私の部屋の寸法比を確認すると、長辺と天井高の比率は「0.54」でした。残念ながら、石井氏が低域に特性の乱れができにくい範囲の下限値「0.6」を若干下回っています。今回は低域の特性改善を目的としているので、助言に従い横長使いを試してみることにしました。
※「リスニングルームの音響学」3章3.9項参照



 <横長使いのシミュレーション 01~05>

 


 まずは、家具を動かさずにスピーカーの配置変えることだけでの問題解決を試みます。これで良い特性がでれば儲けものです。スピーカーを長辺方向に設置し、リスニングポジションは比較的距離をとる正三角形にすることを前提とすると、自ずとスピーカーを設置できる場所は上図に示した範囲になりました。

 左右方法にはまだ動かす余地がありそうなので、約90cmの範囲で左右に動かした状態として「01」~「05」のシミュレーションしてみました。下の図では、「01」→「05」になるにつれ、上側から下側へスピーカー(赤と黒の点)とリスナー(水色の点)が横移動するように変化していきます。

01  
02  
03  
04  
05  


 試聴位置が部屋のセンターから外れていた「01」では、40Hzにピーク、100Hz付近には大きなディップが確認されました。
 少しづづセンター側へ動かしていくと、「03」~「05」のように40Hzのピークが弱くなり、新たに75Hzのピークが出てきました。100Hz付近にあるディップの幅は若干狭くなりましたが、依然として残っており、余り好ましい特性を得ることは出来ませんでした。

 せっかく模様替えをしたのだから、もう少し良い特性を狙いたいところです。そこで次のシミュレーションに移りました。


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長辺設置(横長使い)のシミュレーション その2

 次は、既存の家具を動かすことで、より広い範囲での設置を検討します。シミュレーションをいじって何パターンかやってみると、スピーカーを少しだけ壁際に近づけることで良い結果が得られそうでした。


 <横長使いのシミュレーション 06~10>


 先程と同じように左右方向に動かせる余地があったので、約65cmの範囲で5段階動かしてシミュレーションをしてみました。

06  
07  
08  
09  
10  

 「06」ではかなり特性が荒れていましたが、「07」~「10」はどれも大きなピークディップがなく好ましい特性が得られています。まずは「08」のセッティングで進めてみることにしました。


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斜め設置のシミュレーション

 斜め設置は、大阪の販売店 逸品館が推奨している方法です。スピーカーを部屋の斜め方向に設置をして、さらにリスナーが近づくことで、より広い音場を聴くことができると主張しています。

 
 【参考】https://www.ippinkan.com/cm/setting_1/setting_1.htm


 手法を完全にトレースすることはできませんでしたが、以下ように斜め設置のシミュレーションでも好結果を得ることができたので、結果を載せておきます。


 <斜め使いのシミュレーション 11~15>

11  
12  
13  
14  
15  


 リスナーが部屋の中央に来てしまった「15」を除けば、概ね良好な特性が得られています。これは、左右2本のスピーカー定在波に対して異なる位置に置かれており、定在波の影響を分散できたためだと考えられます。


 ただ、私の部屋でこうした設置をすると、ちょうど西日と対向する方向を向いての音楽鑑賞になってしまう問題がありました。また、ガラス窓のある壁とそうでない壁が、左右スピーカーの背後にそれぞれ来るため、それによる音質差も懸念されるため、今回は採用を見送りました。

 もしこうした問題がなければ、斜め使いを積極的に試してみる価値はあると思われます。


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新しいスピーカー設置の実践と、周波数特性の測定

 先のシミュレーション「08」で好ましい結果が得られたので、あとは部屋の模様替えだけです。生活のしやすさも考慮して、以下のような配置にすることにしました。



 
 <新たな配置>

シミュレーション結果「08」    
<新設置>
リスニングポジションの
周波数特性
 
 (参考)
スピーカー正面20cm特性

※モノラル測定
 


 シミュレーションと比べると、100Hz付近にやや大きなディップがあるのが気になりますが、スピーカーの裸特性と同じような低域下限の減衰カーブを再現することが出来ました。

 音を聴くと、まず低域の癖のなさに驚かされます。今までの設置ではドヨンとした低音だったのに対し、新しい設置では低音の形が手に取るように分かります。また、40Hz付近の音もしっかりと聴くことができ、スピーカーの能力相応の音を聴くことができるようになったのは大きな収穫でした。

 また、音の明瞭さが大幅に上がったのにも驚きました。詳細は後述しますが、私の経験上、「横使い」のほうが明瞭でダイナミックな音を聴くことができると感じています。
 音の広がり感、前後左右から音が降り注ぐ様子は、同じ横使いだった実家時代を思い出します。当時使っていたのはフルレンジのバックロードホーン型でしたが、どうやら部屋の音による影響も大きかったようです。

 今回の配置変更は、無事に成功したと思っています。



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音が良いのは、縦使い?、それとも横使い?

 今回は、縦使い(短辺にスピーカーを設置)→横使い(長辺にスピーカーを設置)への変更でしたが、実家時代にはその逆、横使い→縦使いというパターンを経験しています。

 実際の両者を体験してみると、次のような特徴がありました。

 配置   特徴
 縦使い
(スピーカー短辺設置)
 ・雄大な音
 ・ズシンとくる重低音
 ・厚みと深みのある音場
 ・クラシック向き?
 横使い
(スピーカー長辺設置)
 ・俊敏で鮮度の高い音
 ・瞬発力のある低音
 ・クリーンで広がりのある音場
 ・JAZZ, POPS向き?

 石井伸一郎氏も、著書「リスニングルームの音響学」の中で、横使いの聴感上の音の良さとして「再生音の広がり感、音場感が大きく向上します。(中略)横長配置の音は陽気で、明るく、勢いがあって広がる感じの音になる」と述べており、私の実経験と一致する内容になっています。


重要なのは、縦か横かより「スピーカーの間隔」

 ここからは私の持論になるのですが、部屋を縦に使うか、横に使うかよりも、スピーカーの間隔が大きいか小さいかが大きな違いを生むと考えています。音像は基本的にスピーカーの間に生じますし、スピーカーの間隔(リスナーから見た角度)が広い方が後方への広がりを表現するのも容易になります。

 スピーカーの間隔は、テレビ画面の大きさにも例えることができます。ホームシアターを体験したことのある方なら分かるかと思いますが、大きなテレビで見ると、映像の中身・情報がより認識しやすくなると思います。今まで気付かなかったような所が見える、という感覚でしょうか。
 スピーカーの間隔を広げると、一つ一つの楽器の定位がより認識しやすくなり、把握できる楽曲の情報量も増えます。あくまでも経験上の話ですが、興味深いことに、この効果の大小はスピーカーの角度(よく言われる正三角形かどうか)よりも、2本のスピーカーの距離に依存するのです。

 私の部屋を例として、より具体的に見ていきましょう。次の2つの設置例①②では、縦使い・横使いの差もありますが、右側の図で示した設置②の方がスピーカー間隔が大きくなっています。


 設置例①                  設置例②

 この設置例①②は、今回のセッティング変更を示したもので、afterに相当する設置例②のほうがより良い音が得られました。

 次の例はどうでしょう。
 
 設置例②                  設置例③

 部屋は同じですが、設置例③では、家具をどかして部屋の横幅をいっぱいに使った縦使いです。スピーカー間隔が大きく広がっており、6畳間であれば理想的な設置だと考えています。実家時代には、この設置例③の設置方法でパイオニアのS-1EXを鳴らしていましたが、部屋の空気をフルスイングするような超低音、部屋全体に緻密に広がる音場は見事なものでした。

 
  実家の6畳間に置かれたS-1EX。設置方法は、縦使いの右図に相当。
  現在は、背面の本棚は音響パネルに置き換わっています。


 ただ、現実にはこうした贅沢な設置が困難なことが多く、生活状況と併せて最適解を考えるべきでしょう。

 次は、横使いでスピーカー間隔を最大限に稼いでみたものを比べてみます。


 設置例③                  設置例④

 設置例④で示した横使いの場合、リスナーと背面壁(長辺)との距離に注意をする必要があります。部屋の短辺方向は、そこまで低くない周波数(6畳であれば60~70Hz前後)の定在波が発生し、その壁際にリスニングポジションを移すことは望ましくありません。長辺方向の定在波(40Hz以下に発生)のようにスピーカーの低域下限を拡張するような効果もないため、可能であれば、50cm以上は離れておきたいところです。
 そうすると、自ずと横使いではスピーカー間隔が広げられないことが分かります。設置例④ではそれでもスピーカー間隔を広めにとって描きましたが、正三角形(60°)以上までスピーカーとリスナーの配置が広がっており、センター付近の音像が希薄になる可能性があります。

 こちらも実家時代に経験があるのですが、横使いでスピーカー間隔を目一杯広げたとき(設置例④)の音質は、非常に深々としたクリーンな音場が現れます。まるで清らかな池を眺めるような清々しさのある音質が得られるので、これはこれで魅力のある使い方です。縦使いでの設置と比べて、生活との両立がしやすいのもこの配置の特徴です。


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縦使い、横使いのルームチューニング法

 縦使い・横使いの部屋において、音質をよくするために押さえておきたいポイント(ルームチューニング)について説明します。ここではいずれも6畳間ぐらいの小さな部屋を念頭に、あまりお金をかけない調整方法を紹介します。

 縦使いでのルームチューニング法
  

 まずは縦使い。長辺方向の定在波でスピーカーの能力を超えた低音を体感できるのはメリットなのですが、一歩間違うと「ドムンドムン」という圧迫感と遅さを感じる低音になってしまいます。縦使い特有の"諸刃の剣"を上手く使いこなすことが重要です。
 オススメは、前後(長辺)方向の定在波を吸音するために、スピーカー背面に「低音の吸音材」を設置することです。吸音材といっても、薄いスポンジやカーテンでは低音は殆ど吸収できません。ヘルムホルツ共鳴箱や共鳴管など様々な方法が考案されていますが、私が試した中でコストパフォーマンスと利便性に優れた方法としてオススメできるのが段ボール箱です。
 少し小さめのミカン箱ぐらいのサイズの段ボール箱を6つぐらい確保して、スピーカー背面に積み上げましょう。殆どお金をかけずに、低音を引き締めることができます。

 次は、スピーカーからリスナーまでの伝搬特性の改善です。縦長使いの場合、リスナーに届くまで左右の壁を何度も反射しながら到達する音も出てきます。縦長使いで良い音を出していた知人宅では、この部分を埋めつくすように音響パネルが設置されていました。
 ここでは拡散パネルと描いてしまいましたが、適度な反射と吸音を併せ持っている板を左右壁面に設置するのが良いでしょう。ホームセンターで売っているパイン集成材、シナ合板を何枚か立てかけるだけで、だいぶ変わると思います。もしかしたら、障子の引き戸ぐらいが反射と吸音のバランスがベストかもしれません。いずれにしても、音響パネルは大型の重量物なので、耐震固定はしっかり行いましょう。


 横使いでのルームチューニング法
 
 次は、横使いです。石井伸一郎氏も推奨する横使いでは、定在波の影響を軽微なものにしやすいので、特に音響グッツを持ち込まなくても良い音が出せる可能性が高いです。ただし、リスナーと後方壁(図中、青線部)の距離が近くなりすぎないよう配慮は必要です。

 また、スピーカー間隔を広げようとすると、センターの定位が甘くなりがちです。さらに、スピーカー中央に家具やテレビなどがあると、音場や音像が平面的になってしまう問題が生じます。
 これを回避するために、左右のスピーカーの間に拡散パネルを設置することをオススメします。テレビなどの障害物がある場合は、それによってできた空間上の凸の裾野に添わせるようにパネルを設置します。ここで使う拡散パネルは、ランダムな反射をもっているものが好ましく、シナ合板の板材に杉や桧の角材(30mm角ぐらい?)を貼り付けたものが良いと思われます。
 簾(すだれ)は安価なルームチューニングの定番アイテムですが、使いすぎると音が柔らかくなりすぎるので注意が必要です。


 ここで説明したのは、あくまでも最初に取り組んでみたいポイントの一例です。部屋が抱える音響上の問題や、リスナーが求める音の姿、生活との兼ね合いは千差万別なので、自分なりのルームチューニング法を見出して頂きたいと思います。

 上記の説明で気付いた方も多いかと思いますが、最初に必要なものはオーディオ用の高価な音響パネルではありません。ホームセンターで手に入る素材と、創意工夫でルームチューニングを始めることができます。オーディオ用の音響パネルは、ホームセンターでのDIYルームチューニングからのステップアップを狙うときに検討してみるのが良いでしょう。


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まとめ

 長文になってしまいましたが、定在波を考慮したスピーカー設置についてデータを交えて読み解いていきました。要点としては、下記のとおりです。

 ・定在波シミュレーションソフト「Stndwave2 Ver.0.9」で、比較的良好な結果が得られた。
 ・横長配置に変更し、良好な低音特性を得ることができた。
 ・縦使い、横使いにそれぞれメリットがある。


(終)



評論/情報高音質を目指すためのスピーカー技術 >16. ルームアコースティック01(定在波とスピーカー設置)

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