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17. JBLの最新ハイエンドスピーカー試聴記(スタジオモニター編)

 人気のある老舗スピーカーメーカー「JBL」。ここではハイエンドスピーカーとして注目される「スタジオモニターシリーズ」のトップモデルを試聴し、その魅力と進化を読み解いていきます。

 <目次>
 ・JBL「スタジオモニター」シリーズの歴史
 ・JBL4349を聴く
 ・30cm口径、「4428」「4429」「4349」の比較
 ・JBL4367を聴く
 ・38cm口径、「4348」「4338」「4365」「4367」の比較



JBL「スタジオモニター」シリーズの歴史

 1970年代に、JBLは本格的にスタジオや放送局への納入を行うようになります。ダブルウーハーの「4350BWX」を頂点とし、「4300」シリーズとして様々なラインナップが展開されます。

    4350BWX(1980)

 ブルーバッフルと呼ばれる印象的なデザインとその設計思想は、一般のオーディオマニアからも高い評価を得ます。名機「4343」をはじめとして、半世紀近い歳月をかけて今の製品につながっていきます。

 今となっては、レコーディングモニターとしての役割を担っていることは殆どなく、「JBL M2」のようなスピーカーがその地位に取って代わっています。しかし、ブルーバッフルと呼ばれるその貫禄のあるルックスや、大口径ウーハーとホーンの組み合わせはいつの時代もJBLファンの憧れでした。その代表的なモデルを次にに示します。

JBL スタジオモニターの歴史
製品画像:JBL社 資料より JBL ホームスピーカー : ラウドスピーカー、プレミアムオーディオ

 4343からはじまる40cm(38cm)ウーハーをもつシリーズだけでなく、よりコンパクトな30cmウーハーをもつモデルもあります。かつては鳴らしにくいなどと言われたJBLのスタジオモニターシリーズですが、2000年を過ぎてからのモデルは、スピーカーユニットの進化により素直な音質を持つモデルが多くなっています。


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JBL「4349」を聴く

 2020年に発売の4349は、30cm口径のスタジオモニターシリーズの最新モデルです。2way構成、ポリエチレンナフタレート繊維Teonex系振動板、ウェーブガイドの技術を応用したHDIホーンなどと、前作の4429とは大きく異なる意欲的な製品になっています。

 

 ロックを聴くと、ギターの切れ味と濃厚な味わいが感じられます。バチンとくる音と、それがパサつかずに濃厚さを持って聴こえてくる感じでしょうか。
 JAZZの金管は、ホーンで聴くことで、生楽器のストレートな音圧感が肌に伝わってきます。フケ上がりの良さという感じとも言えます。

 

 HDIホーンは絞りが浅いため、ホーンらしい音が聴けるか少し心配していましたが、実際の音を聴くとその心配は無用だったことが分かります。

  

 昔のホーンと違うのは、ホーンの癖が実に巧みに抑えられていることです。指向性も広く、ホーンの瞬発力を損なわなずに、聴きやすさも両立していると感じました。素材は2000年以降のJBLフラッグシップ級スピーカーで使われるSonoglassが奢られており、十分な剛性を確保しています。

 

 低音は大口径ウーハーらしいエネルギーに満ちたものでした。ホーンのエネルギーに負けないパワーと、小さい部屋でも扱いやすい質感を両立できているように感じました。
 ギターの濃厚さの半分はこのウーハーから出ていると言ってもよいでしょう。2way構成でクロスオーバー周波数は1.5kHzと(大口径ウーハーとしては)高めになっていますが、ガサガサとした質感がのるようなことは無く、安心して大口径ウーハーの魅力を楽しむことが出来そうです。

 

 40cm口径のスケールダウンとして見られがちな30cm口径スピーカーですが、今回の試聴で十分以上の実力を感じることが出来ました。15畳以上の部屋であれば40cm口径を選びたいところですが、一般的な部屋と音量であればこの「4349」で低音から高音まで十分なエネルギーと質感をもつサウンドを堪能できると思います。


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30cm口径、「4428」「4429」「4349」の比較

2001年以降に発売された30cm口径のスタジオモニター「4428」「4429」「4349」シリーズは、何が違うのでしょうか。表にまとめてみました。

  JBL 4428
(2003年)
JBL4429
(2009年)
JBL4349
(2020年)
発売当時の価格
(税別)
245,000円  300,000円  400,000円
スーパーツイーター
ドライバー
015M
リングラジエーター
138Nd
コンプレッションドライバー
-
スーパーツイーター
振動板
ポリプロピレン ピュアチタン  -
スーパーツイーター
ホーン
 なし バイラジアルホーン -
ツイーター
ドライバー
175Nd-2
コンプレッションドライバー
175Nd-3
コンプレッションドライバー
D2415K
D2コンプレッションドライバー
ツイーター
振動板
ピュアチタン ピュアチタン  Teonex
ツイーター
ホーン
バイラジアルホーン バイラジアルホーン HDIホーン
ウーハー
ドライバー
1200FE-8 1200FE-8 JW300PG-8
ウーハー
振動板
ケブラー
コンポジット
ケブラー
コンポジット
ピュアパルプ

 価格
 2003年に登場の「4428」は245,000円(税別)だったのに対し、2020年の「4349」は400,000円(税別)になっています。この間、残念ながら日本の平均給与や物価はほぼ横這いであり、そのなかでのこの価格上昇は大きな変化だと言えます。もし「4349」の次のモデルが出たら「4428」の倍の値段になってしまうのではないでしょうか。

 スーパーツイーター
 「4428」(2003年)は、リングラジエータードーム型。振動板は、ポリプロピレン。一部ではポリイミドという記述も見かけましたが、Phile-web+Digitalの記事ではポリプロピレン(PP)振動板と記載されており、ポリプロピレンが正しいものと思われます。
 同年代の「JBL S4000」にもリングラジエーター型のツイーターが搭載されており、DVD Audioなどの登場に合わせて広帯域再生へ対応するためのものだったのだと思われます。

 「4429」(2009年)は、生粋のJBLならではのホーンになっています。ピュアチタン振動板はもとより、バイラジアルホーンは1974年のJBL4430で初めて搭載された伝統的なホーン形状参考:ホーン今昔物語(その13)です。一般的にホーンは最高域のレンジが伸びにくいのですが、この「4429」の再生帯域は「4428」の45kHzから50kHzに拡大しています。

 「4349」(2020年)では、2way構成化に伴いスーパーツイーターは存在しません。


 ツイーター
 「4428」「4429」は共に、ピュアチタン・コンプレッションドライバーにバイラジアルホーンというJBL定番の組み合わせです。磁気回路の若干の差があるのみで、ほぼ同一といって良いでしょう。
 素材もSonoglassと共通ですが「ホーンその物を叩いた感触では、4428の方が厚みがありそうでコツコツッっという詰まった音してました。(参考:JBL 4429 : On Age Audio」という記述もありました。

 「4349」(2020年)では、D2ドライバ(D2415K)とHDIホーンという大きな変化を遂げます。D2ドライバは、下記にあるとおり、興味深い構造をしています。
   

 これにより、振動板の面積を大きくしながらも、最高域までの再生が可能になりました。再生周波数帯域こそ25kHz止まりではありますが、それ以上にダイナミックレンジの拡大を重視したものと思われます。

 ネットワークもそれに対応するように、各素子が並列で組まれています。私自身も実験をして経験があるのですが、このように並列接続をすることでコンデンサの直流抵抗の低減や、抵抗の容量upなどのメリットが得られ、音質上も滑らかでありながらダイナミックな表情になります。
 素子数が増えることによるコストアップは否めませんが、「4429」から「4329」への進化で、3wayから2wayになりネットワークの構成がシンプルになったことで、素子の並列化が可能になったのでしょう。

   
 (左)「4429」(2009年)のクロスオーバーネットワーク
 (右)「4329」(2020年)のクロスオーバーネットワーク


 
 ウーハー(WO)
 「4428」「4429」のウーハーは共通して、1200FE-8というモデルを搭載しています。名機K2 S-9800の弟分である K2 S-5800に使われたウーハーの8Ω仕様で、その性能は折り紙付きです。
 コーン紙は、パルプ材にケブラー繊維を混抄することをで強度を高めています。ウーハーの構造を見ても、大型の磁石や強固なフレームが印象的で、30cm口径ウーハーの最高峰ともいって良い出来になっています。


     
    (左)「4429」(2009年)に搭載されるユニット 1200FE-8
    (右)「4349」(2020年)に搭載されるウーハーユニット JW300PG-8


 一方で、「4349」のウーハーはJW300PG-8です。基本的な構造は、1200FE-8と共通のようですが、振動板がピュアパルプになっていることが特徴です。

 ケブラー繊維が無くなったことによる音質上の違いが懸念されますが、試聴レビューを見ている限りでは概ね好評のようです。

 例えば「各帯域間の繋がりも良く滑らかで、決して大型ホーンを誇張する表現では無い印象です。音色としてはやや穏やかで、温度感は中道的、長時間のリスニングでも疲れにくい印象でした。(参考:JBL MODEL 4349 試聴レポート 」というレビューがら推察されるように、エネルギー感だけでなく中高域との繋がりの良さがピュアパルプ振動板の持ち味なのではないでしょうか。


 総論
 「4428」と「4429」については、ほぼ兄弟といって問題ないでしょう。
 4429のレビューで「以前に中古の4428を同じこの場所で聞いてみる機会があったのですが、音質は条件付で同じに聴こえます。(参考:JBL4429は使ってみてこんな感じです」という記述もあり、完全に同一ではないにせよ、音の傾向は類似しているものがあると思われます。年式も古く、中古の値下がり率を考えれば「4428」は最もお買い得なモデルだといえるでしょう。

 一方で、「4429」の魅力は、搭載されているドライバーにあります。ウーハーはハイエンドスピーカーの「K2 S5800」譲りですし、ミッドレンジとツイーターのドライバーは倍以上の値段の「S4700」と同一です。この辺は、オーディオスクエア店のブログが魅力的に書いてあるので、読んでみると購入の後押しになると思います。

 最新の「4349」は、上記のレビューで書いた通り、ホーンの癖は殆ど感じませんでした。「4428」は、チンチン鳴る金物の感じがホーンらしいなぁと思わせたのですが、「4349」ではホーンの違和感は皆無です。ホーンというより、実質は指向性をコントロールするだけのウェーブガイドとして機能しているのかもしれません。

 他の方の「4349」のレビューでは、「オールドJBLはバイオリンの絃の表現は、金属質になってしまい、落ち着きのあるクラシックを聴くことはできなかったが、今回の4349を体感すると、オールマイティな表現力を持っていると感ずる。JBL 4349 スタジオモニター 試聴レポート 」という評がある一方で、「4343や4312系に慣れた人からすると、違和感を感じるかも?ジャズからクラシック系まで鳴らせる無難な音。価格.com - 『購入その後、簡単に再レビュー。』」という評があるぐらい、一皮むけたという音になっています。


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JBL「4367」を聴く

 2015年に発売の4367は、38cm口径のスタジオモニターシリーズの最上位モデルです。D2ドライバとHDI Xウェーブガイド・ホーンの搭載により、2way構成になったことも大きなポイントです。



 まずはロックのライヴ盤を聴きます。同じD2ドライバを搭載する4349より自然な表情が印象的で、価格差を感じさせる懐の深さがあります。これみよがしなか感じではないのですが、前へ前へ出てくる表情は、Jazzやライブハウスの音を彷彿させる個性を感じました。この辺は、演奏者との距離あがるクラシックで求められる再生能力とは異なる所だといえそうです。
 「4367」の音は、エネルギーが厚く・太く・前に来る。もし一般のスピーカーから出てくる音に「細さ」を感じるのであれば4367を含むホーンがドンピシャである可能性は高いのではないでしょうか。



 30cmの4349と比べると、この4367の低音は下が伸びるというより、生楽器のような身体が振動するような低音に変わります。ズシンと重く沈み込む感じにならないのはJBLらしいですね。
 また、ホーンの下の帯域とのつながりは極めてスムーズで、以前のような癖っぽさを感じることは皆無でしょう。その一方で、30cm口径の4349と同じく、リスニングポジションの上下位置で大きく音の印象が変わると感じました。4367の真価を聴くには、スピーカーと同じ高さにリスニングポジションが来るように注意する必要があります。



 また、ホーンのエネルギーに合わせるために、ウーハーからのパワーもかなりあります。これは30cm口径の4367より顕著でした。
 小さな部屋、小音量でどう出てくるか推測するのは難しいのですが、部屋には低音のエネルギーをしっかりと受け止める(吸音も含めて)ことができる部屋が望まれます。




 30cm口径の「4349」、38cm口径の「4367」。両スピーカーに共通するのは、立ち上がりを重視しつつも、実在感や濃厚さがしっかりあることです。繊細さや素材感(音源に記録されている音色をそのまま出す能力)は他方式の方が優れるかもしれませんが、ライブのエネルギーを肌で感じたい人にはJBLの大型ホーンが随一の選択肢になるでしょう。



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38cm口径、「4348」「4338」「4365」「4367」の比較

 2001年以降に発売された38cm口径のスタジオモニターシリーズ「4348」「4338」「4365」「4367」は、何が違うのでしょうか。表にまとめてみました。

  JBL 4348
(2002年)
JBL4338
(2004年)
JBL4365
(2010年)
JBL4367
(2015年)
発売当時の価格
(税別)
800,000円  650,000円  840,000円  800,000円
寸法(mm)
幅×高さ×奥
重量(kg)
597×1080×400
90.7kg
549×921×375
63.4kg
598×1046×430
85.0kg
560×941×425
61.2kg
スーパーツイーター
ドライバー
045Ti
コンプレッションドライバー
045Ti
コンプレッションドライバー
045Ti-1
コンプレッションドライバー
-
スーパーツイーター
振動板
ピュアチタン ピュアチタン ピュアチタン -
スーパーツイーター
ホーン
コンスタントカバーレージ
バイラジアルホーン
不明 不明 -
ツイーター
ドライバー
435Al
コンプレッションドライバー
435Al
コンプレッションドライバー
476Mg
コンプレッションドライバー
D2430K
D2コンプレッションドライバー
ツイーター
振動板
アルミニウム
7.5cm口径
アルミニウム
7.5cm口径
マグネシウム合金
10cm口径
不明(Teonex?)
7.5cm口径
ツイーター
ホーン
コンスタントカバーレージ
バイラジアルホーン
コンスタントカバーレージ
バイラジアルホーン
(不明) HDI
Xウエーブガイド
ホーン
ミッドバス
ドライバー
2251J-1 - - -
ウーハー
ドライバー
1500FE 1500FE 1501FE 2216ND
ウーハー
振動板
ピュアパルプ ピュアパルプ “SonoCore”3レイヤー・サンドイッチ・コーン ピュアパルプ
ウーハー
エッジ
EPDM
フォームラバー
EPDM
フォームラバー
アコーディオン・プリーツ・クロスエッジ 特殊処理クロス
ロールエッジ(?)

 価格
 価格は、2002年の「4348」、2010年の「4365」、2015年の「4367」は、どれも1本80万円前後になっています。金属価格が高騰するかで、価格を維持しているのは驚くべきことです。それでいながら、JBLのスタジオモニターシリーズとしてのブランド・魅力を維持しているのは、JBL社のたゆまない努力のためだといえるでしょう。

 異色なのは2004年の「4338」です。価格は65万円と大きく下がっています。(それでもペア100万円超の高級機なのですが...)当時、「4348」の弟分として登場したことを思い出します。ドライバーは、ミッドバスが無くなったことを除けば「4348」とほぼ同一なので、お買い得モデルだと言えるでしょう。

 サイズ・重量
 「4348」(2002年)と「4365」(2010年)は、堂々の90kg前後の重量です。大人数人でやっと動かすことができるレベルでしょうか。中古で買うときは注意が必要そうです。

 「4338」(2004年)は一回りコンパクトで、重量も60kg台と一般的な大型スピーカーの範囲に入ってきます。ユニット構成は「4365」と同じ3way構成なので、エンクロージュアが簡素化されているものと思われます。当時、コンパクトな38cm後継の系統の「4333」の後継では、という声もありました。(参考:JBL4338: オーディオショップ店長の日記」)

  コンパクトな「4338」


 しかしながら、30cm口径の同社スタジオモニターシリーズと比べると、やはり38cm口径ならではのメリットがあるようです。
 4428との比較では、「(4338の)肝心の音の方は、「余裕」 そんな表現が、ぴったりです。38cmウーハーから出る音は、こんなにも違うものか… 4428の30cmでも、結構いいと思っていたんですが、比べ物になりませんね。(参考:HR/HMを良い音で聴こう : JBL 4338を聴きました」といったレビューがありました。
 また、最新の4349との比較でも「音の定位は4349の方が良い、しかし、音の迫力や重みが4338の方が上。1950年代の音がちょっと現代的になる。低音の重さが圧倒的に違い、音が軽くなる。(参考:MY AUDIO HISTRY その2 試聴レポート」というレビューもありました。

 「4367」(2015年)は、サイズこそ平均的ですが、重量は61.2kgと扱いやすくなっています。これは、ウーハーの磁石が小型軽量なネオジムになったことが効いているものと思われます。



 スーパーツイーター
 スーパーツイーターのドライバーは、「045Ti」「045Ti-1」といずれもほぼ共通です。この「045」という型番は、ベリリウム素材の振動板をもつ上位機種にも使われており、例えばエベレストDD66000のスーパーツイーターは「045Be-1」になっています。この「045」系統のスーパーツイーターは、歴史的には「K2 S9800(2001年)」から使われており、2002年に登場した「4348」では最新の基本設計のスーパーツイーターを搭載したということになるでしょう。(※そのひとつ前の「4344mk2」では2405Hというスーパーツイーターが使われています)
 これらには非常に小さなホーンが搭載しており、「4348」では「コンスタントカバーレージバイラジアルホーン」であると明記されていますが、それ以降は特に命名されていません。「バイラジアルホーン」は、JBL伝統のホーン形状。それでは「コンスタントカバーレージ」とは何でしょうか。調べると「カバーレージ」とは「受信範囲、対象範囲」という意味がある言葉であり、音の放射特性をより均一にできたという意味があると思われます。
 

 ツイーター
 「4348(2002年)」と「4338(2004年)」は、どちらも3インチ(7.5cm)口径の「435Al」というドライバーを搭載しています。振動板素材はJBLとしては珍しいアルミニウムですが、先代のスタジオモニター「4344mk2」の2インチから3インチへ口径が拡大しています。

 「4365(2010年)」では、さらに大口径化した4インチ(10cm)のマグネシウム振動板をもった「476Mg」というドライバーになっています。これは、上位機種のK2 S9900やエベレストDD65000にも搭載されたプレミアムクラスのドライバーです。
  上位機種と同じドライバーを搭載した「4365」

 
      ツイータードライバー「476Mg」の構造 (参考:K2 S9900


 そして、「4367(2015年)」では、「D2430K」という全く別のドライバーが搭載されます。これは、D2コンプレッションドライバーと呼ばれるもので、JBLのハイエンド・ラインアレイ型スピーカー「VTX」や、モニタースピーカー「M2」で使われているものと同一です。

   

 30cm口径の「4349」では、帝人が開発したTeonexというポリエチレンナフタレート系樹脂(のフィルム?)の振動板であると明記されていましたが、こちらの「4367」ではそうした記述を見つけることはできませんでした。

 この「4367(2015年)」には、HDI Xウエーブガイドホーンという新しい形状のホーンが搭載されています。これは、米国特許US9924249B2などに詳細が書かれており、簡単にいえばホーンの内壁に絞りを入れるような凹凸を作ることで、ホーン内部の反射(共鳴)が低減されたり、周波数応答が向上する効果があるというものです。

  米国特許US9924249B2 Fig19より

 このHDI Xウエーブガイドホーンと入念なクロスオーバー回路により、「4367」は極めてフラットな周波数特性を得ています。

 
  JBL 4367 White Paperより


 ミッドバス
 ミッドバスは、4348が最後のモデルになりました。4348が生産終了になり、3wayの4368にモデルチェンジする際、ファンの間からは「むか~し「4344」を使っていましたから、あの【ミッドバス】の 張りのある 乾き切った様な 中低域の音が大好きでした。(参考:4348 から 4365へ  ?  (-_-;) 」と惜しむ声もありました。しかし、この投稿をされた方は後日、3wayの「4368」を導入されたこともあり、脱ミッドバスを選んだJBL社の選択は間違っていなかったと言えるでしょう。

  最後のミッドバス搭載モデル「4348」


 余談ですが、最後の4wayであった4348は「使いやすい」という声と「使いにくい」という声が双方あるのが興味深いところです。
 たとえば、「とても素直で美しい音が出ました。ぽいと置いただけで、これだけの音が出るとは、さすがJBLのハイエンドモニタースピーカーですね。(参考:JBL4348 : Katyanのオーディオ・ビジュアル・ルーム」というレビューがある一方で、「この4348(4343、4344)は (中略) 使う人にウルトラハイエンドな能力を求められるスピーカーなのだ。(参考:JBL 4348」というレビューもありました。
 よく調べると、前者のレビューアーは大型のホーンスピーカーをお使いの方で、後者のレビューアーは小口径フルレンジを主にお使いの方のようでした。JBLの4wayスピーカーを鳴らしやすいと感じるか、そうでないかは、リスナーの音の好みによるものと思われます。JBLのスピーカーは、JBLとしての音を出すのは容易であっても、それをユーザーの意図した方向に曲げようとすると途端に困難になるのでしょう。
 現在は中古でしか4348を手に入れる手段はなく、試聴ができる場所も限られています。しかしながら、かつての4343の音に惚れ込み、憧れた方であれば全く問題なく4348の音を楽しめるのではないでしょうか。


 ウーハー
 「4348(2002年)」と「4338(2004年)」は、どちらもペーパーコーンをベースとした「1500FE」というユニットが搭載されていました。これは、K2 S9800に搭載された「1500AL」のフェライト磁石版です。

 「4365(2010年)」に搭載される「1501FE」は、型番こそ似ていますが内容は大きく変わります。まず、振動板がインジェクション・フォーム・コア材をピュアパルプ・スキンでサンドイッチした“SonoCore”3レイヤー・サンドイッチ・コーンになります。このサンドイッチ構造をもつ振動板は、他にはエベレスト「DD67000」のみという特別なものです。
 また、エッジは従来のロールエッジからアコーディオン・プリーツ・クロスエッジに変わります。このエッジ形状は後継機の「4367」、さらにはエベレスト「DD67000」にも使われることになる、最新世代JBLを象徴する形式です。

 「4367(2015年)」では、以下に示す「2216Nd-1」という全く違ったウーハーが搭載されます。
  
  (参考:JBL 4367 White Paper.pdf

 振動板は、ピュアパルプに戻っています。表面のAquaplas塗布処理は、K2 9900の「1500Al-1」や同社業務用モデルでもなされており珍しいものではありません。また、今まで採用されていた偶数次歪を打ち消すというデュアルダンパーも無くなり、1枚のシンプルなものになっています。
 一番の注目は、「ディファレンシャルドライブ」という特徴的な磁気回路になっていることです。通常のスピーカーユニットでは磁石の片側の磁力線のみが動力源になりますが、この方式では強力なネオジム磁石の両側の磁力線を活用することができます。これにより一般的なスピーカーユニットと比べて高能率、低歪を実現できるとのことです。また、ネオジム磁石との組み合わせによる磁気回路全体の小型化は、エンクロジュア容量の有効活用や、本体重量の軽量化にも役立っています。
 これは、同社のモニタースピーカーM2や、民生用高級スピーカーS4700に搭載された「2216Nd」のマイナーチェンジモデルだと考えてよさそうです。


 総論
 38cm口径のモデルは、どれもその時代のJBLを象徴する名機であることが分かります。

 まず、最後の4wayになった「4348(2002年)」。ミッドバスを搭載する貴重なモデルでありながら、先代の4344mk2と比べると音響レンズの廃止や、ツイータードライバー口径の拡大など、様々な進化が感じられます。

 次に、コンパクトな筐体が印象的な「4338(2004年)」。38cmウーハー搭載機のなかでは比較的コンパクトですが、レビューを見ると30cmウーハー搭載機と比べて格段の表現力の差があるという声が多くありました。30cm口径からのステップアップに最適なモデルではないでしょうか。

 そして、フラッグシップ機を彷彿させる豪華なユニットが奢られた「4365(2010年)」。K2 S9900やDD65000と同じ「476Mg」、DD67000と類似の思想を持つ「1501FE」など、所有していて嬉しくなる要素が満載です。ミッドバスが無くなってもなおJBLらしい音を体現した製品になっています。

 最新の設計思想に基づく「4367(2015年)」は、D2ドライバとHDI Xウエーブガイドホーンという全く新しい構成になっています。
 レビューを見ると「JBL S4700が昔ながらのゆったり聴くタイプのステレオタイプのサウンドで有れば、こちらのJBL 4367は、最近の解像度の高い原音忠実なタイプのモニターライクなモニタースピーカーと言った感じでしょうか。(参考:価格.com - JBL 4367 [単品] レビュー評価・評判といった、解像度が高い(高すぎる?)ことを指摘する声もありました。この辺は、オタイオーディオさんの動画で確認してみるのが良いと思います。

 



>>「エベレスト」「K2」についての試聴記を読む



評論/情報高音質を目指すためのスピーカー技術 >17. JBLの最新ハイエンドスピーカー試聴記(スタジオモニター編)

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