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オーディフィル音質探求道 >32. 2006年のオーディオショウ「A&Vフェスタ2006」
32. 2006年のオーディオショウ「A&Vフェスタ2006」
1996年のDVD発売、2003年のブルーレイディスクレコーダーの発売、同年の地上波デジタル放送の開始と、現代につながる映像の歴史を塗り替える出来事が立て続けに起こったのが2000年前後でした。
国産メーカーはその流れに乗り、ホームシアターシステムを次々に市場に投入。薄型テレビの市場拡大もあわさって、活況を呈していました。各社はAVアンプのみならず、それに組み合わせるスピーカーやプレーヤーを含めてフルラインナップで展開しており、まさに
百花繚乱といえる時代でした。
ここでは、その後期にあたる2006年のオーディオショウ「A&Vフェスタ」(2025年現在の「OTOTEN」に繋がる催し)の様子と共に、当時を振り返ってみます。
目次
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会場周辺
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ヤマハ
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パイオニア
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TAD
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富士通テン
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ソニー
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ビクター
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Fostex
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JBL
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フライングモール
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おわりに
会場周辺
会場は、パシフィコ横浜。その最寄り駅となる桜木町駅は、2004年の東横線とみなとみらい21線との相互直通運転開始に伴い、新しい駅舎になっていました。
駅のホームには、AVフェスタの広告が多くありました。
会期は9月21~24日の4日間と、かなり大規模な催しだったことが伺えます。
会場に到着。改めて、パシフィコ横浜でやっていたんだなぁと思わせる光景です。
会場前の待機列。
この時代、まだ誰もスマートフォンを持っていません。初代iPhoneの発売は、翌年の2007年(日本発売は2008年から)なのです。
ヤマハ
まずはヤマハのブースに立ち寄ってみましょう。2025年現在でもホームシアターの中心的存在であるヤマハですが、この当時も
シネマDSPを特徴としたシステムを掲げていました。
今でこそ、ドルビーアトモスで天井付近にスピーカーを設置することが一般的ですが、
当時は5.1chが収録音源の基本であり、写真上部にあるフロントハイの音はヤマハ独自のDSPで演算した音を再生しています。
メインスピーカーは、2006年9月発売の新製品
「Savo1」。2013年に「NS-F901」として発売されるスピーカーの原型となったモデルです。それまでも「NS-8HX(2001年)」という大型トールボーイ型スピーカーはありましたが、このSavo1になって本格的なステレオ再生にも対応できるシステムになった印象です。
振動板素材の統一や、エンクロージュアの木組みといったヤマハらしさに加え、洗練されたデザインや、アルミニウム素材をバッフル面に使うなど、現代的なトールボーイ型スピーカーであることも注目に値します。

入場整理券

Soavo1カットモデル
パイオニア
2014年にホームAV事業をオンキヨーに譲渡。2019年には上場廃止。さらに、パイオニアブランドの受け手となったオンキヨーホームエンタテインメント社は、2022年5月に倒産。こうした激動の運命を辿ることになるパイオニアですが、2006年当時はプラズマテレビ事業も推進している活躍ぶりでした。
そんなパイオニアの大ヒット商品が
「S-1EX」でした。2005年に発売された本機は、
TAD直系のCSTドライバーを搭載、ペア100万円という頑張れば手が届く価格、優雅なラウンドフォルムという内容で、大変な人気を博しました。
写真にあるセンタースピーカー「S-7EX」、ブックシェルフ型スピーカー「S-2EX」だけでなく、翌年2007年に発売される弟モデルの「S-3EX」「S-4EX」「S-8EX」もこの時代を代表する名機です。

S-2EX
S-1EXは、実家で長らく愛用しているのですが、キャラクターを感じさせない透明なトーンをもちながら、ベリリウム振動板のツイーターによる高域の描写が魅力的なスピーカーです。低域は軽く、どのようなアンプでも労せずに鳴らすことができますが、強力なアンプを持ってくればTAD直系のキレのよい音も出せる懐の深さがあります。

S-1EXのカットモデル。磁気回路の造形が美しい。
S-1EX登場以前のパイオニアのホームシアターを支えるスピーカーとして
「S-A7(2000年)」「S-A7Ⅱ(2002年)」という製品がありました。あくまでもホームシアター用としての音質だったと記憶していますが、これはこれでパイオニア製スピーカーの代名詞ともいえる、
1974年発売の「PT-R7」というリボンツイーターを継承する最後のモデルとして注目できる製品です。
しかし、このS-1EXはその流れを断ち切り、TAD 「M1(2003年)」、「R1(2007年)」というハイエンドスピーカーの血を引いたものに変化しています。S-1EXはパイオニアのスピーカーの新時代の始まりを告げたスピーカーなのです。この後に発売されるTADの「E1(2011年)」は、S-1EXと類似したドライバー構成であり、同じ構成は「GE1(2023年)」に引き継がれています。
AVアンプでもパイオニアは大活躍。今では当たり前となった自動音場補正をいち早く搭載した「VSA-AX10(2001年発売)」や、超弩級ハイエンドAVアンプ「SC-LX90(2007年)」など記憶に残る製品を次々と生み出していました。
TAD
TADは、2003年に「TAD M1」を発売し、コンシューマー市場に存在感を示し始めます。M1は、ハイエンドスピーカーとして注目すべきものでしたが、2007年の「TAD
R1」発売はコンシューマー市場での立ち位置を確固たるものにする出来事でした。
2006年のAVフェスタでは後のR1になるスピーカーが参考出品されていました。見ての通り、製品版のR1とほぼ同じ外観をもつモデルでの音出しが行われました。
2025年現在では、TADはプレーヤーとアンプも擁するブランドになっていますが、当時は上流系は他社製品も使っていました。プレーヤーはエソテリック、プリアンプは同社のExclusiveブランドのもの、アンプはPASSという混合チームであったことは、この時代ならではの光景でしょう。
富士通テン(現デンソーテン)
2017年にデンソーテンと名称が変わった富士通テンのブースです。
2001年に同社より発売された「512」という、黄色い振動板をもつ卵型スピーカーは、オーディオ業界において大きなニュースでした。
由井啓之氏の提唱するタイムドメイン理論は、オンキキョー「グランドセプターGS-1(1984年)」、タイムドメイン「Yoshii9(2000年)」などの名機をうみだしまたが、この「512(2001年)」から始まる卵型シリーズもその一角に加わることになります。
A&Vフェスタ2006では、その
フラッグシップモデル「TD712z」が演奏されていました。2004年に発売された本機は、スタンド一体型の本格的フロア型モデルで、そのコンセプトは変わらずに、後の「TD712z Mk2(2009年)」「TD510ZMk2(2012年)」とつながり現代に至っています。
各社がDVDオーディオやSACDの超高域再生を謳い、マルチウェイ全盛となっていた市場に突如現れた新星「卵型スピーカー」は、四半世紀を経た今もなお確固たる人気を得ています。
写真に写っているサブウーハーは、2006年に発売された
「TD725sw」です。水平対向の25cm振動板をもつ密閉型で、今に続く系統の初号機になります。サブウーハーの上には水の入ったコップがあり、振動がキャンセルされることを謳うデモも、この当時から続いています。
水平対向の密閉型サブウーハーは、オンキヨーの「Scepter-SW1(2001年)」や「SL-605(2000年)」がありましたが、あまり脚光を浴びる存在ではありませんでした。特に、
Scepter-SW1は、左右のドライバーがアルミシャフトで連結されていたかなり力の入った製品だったので、もっと知られていい名機だと思っています。
2000年代前半のサブウーハーのトレンドに関しては、ビクターの「SX-DW7(2001年)」が、ヤマハ「YST-SW1000(1990年)」に代わるオーディオ用サブウーハーとして注目されていたことを思い出します。DVDオーディオやSACDに収録されているマルチチャンネルオーディオに対応すべく、サブウーハーが注目された時代でした。
ソニー
ソニーは、映像関係も手掛けながら、ホームシアター、特にSACDに端を発するマルチチャンネルオーディオの先端を走る存在でした。伝説の技術者、かないまる氏(故
金井隆 氏)が作る音は、ホームシアターのみならずオーディオ界からも大きな注目を集めていました。
写真のマルチチャンネルシステムのメインスピーカーは、2001年に発売された「SS-X90ED」。1998年にB&Wから発売されたノーチラス800シリーズと見間違えそうなユニット構成ですが、本機はウーハーユニットを独立したフレームに取り付けるなど、1本9万円とは思えない気合の入った造りになっています。音も、2chオーディオとして十分に使える素直なものだったと記憶しています。
この時代を象徴する要塞のような巨大なサランドアンプ。50万円~100万円の高価格帯で、各社がこぞってこうしたフラッグシップモデルを製品化させていたことを思い出します。(写真はTA-DA9000ES)
ステレオシステムの展示では、
翌年の2007年に発売される「SS-K10ED」と酷似したスピーカーがありました。本機を意識的に試聴した記憶はないのですが、2003年にQUALIA(クオリア)ブランドで発売された「Q007-SSS(ペア70万円!)」の実質的なスピンオフモデルであることを考えると、注目すべき製品だといえるでしょう。
ビクター
ビクターはこの時代、大きな転換点を迎えていたと思います。駆動軸を中心からずらした「オブリコーン振動板」をもつSXシリーズには、
高級フロア型システム「SX-L7(2001年)」「SX-L9(2003年)」「SX-L77(2004年)」という名機を残しました。美しい仕上げと音は、聴く者を魅了する代えがたい魅力があったのを思い出します。1970年代からビクターは共振分散を基軸とした美しい音への探求があり、同じHiFiといえどモニター気質な他社とは異なる独自路線を感じされるものでした。
このオブリコーンは、マグネシウム振動板をもつ「SX-M7(2008年)」が最後と記憶しています。当時、マグネシウム振動板がブームとなり各社から発売されていましたが、このSX-M7は今までの同社製スピーカーとはやや毛色の違う印象で、マグネシウム素材の特長を生かした実直な音だったと記憶しています。
2006年は、まさにオブリコーンからウッドコーンへの転換点でした。2003年の初代ウッドコーンシステム「EX-A1」を皮切りに、フルラインナップが完成したのがこの2006年です。その
最高傑作と呼ばれるのが同年発売の「SX-WD500」です。写真では惜しくも隠れてしまっていますが、SXシリーズに相応しい美しいエンクロージュアに収まったウッドコーンは、今もなお色褪せない魅力を感じることができます。
その後、ご存じの通りウッドコーンはオーディオマニア向けの単品コンポーネントから、ラグジュアリーリスニング向けのシステム販売に舵を切ります。SXシリーズの隆盛を知る立場からすると寂しさもありますが、時代を象徴する姿として記憶に留めておきたいものです。
最後に紹介したいのが、呼吸球と称した無指向性スピーカーです。惜しくも製品化には至りませんでしたが、同社の研究開発の過程で生まれたものと思われます。
これ以前にも、
DDスピーカーと称する「SX-DD3」「SX-XD303」という広指向性スピーカーを製品化し、オーディオ評論家の故 江川三郎先生が高く評価していたことを思い出します。音楽に寄り添いながらも、技術者魂を感じる数々の製品を生み出してきた歴史は、忘れないでいたいものです。
FOSTEX
FOSTEXは、母体となるフォスター電機と共に、多岐にわたるオーディオ製品を世に送り出していますが、2006年当時は本格的なスピーカーシステム販売もしていました。
写真に写っているのは、
2007年3月に発売される「G1300」のプロトタイプ。Fostexが完成品としてのスピーカーシステム市場に本格的に参入することになった最初の製品です。
13cmウーハーを搭載する本機は、2011年には「G1300MG」へとマイナーチェンジされ、兄貴分の「G1302(MG)」「G2000(a)」と共に、大きな反響があった製品群でした。
2006年の「G850」という小さなフルレンジスピーカーの発売に端を発したのが、
マグネシウム振動板のブームでした。高い内部損失をもつ素材が、スピーカーの振動板に向いているということで、先のパイオニアをはじめ、ビクター、エソテリック、少し遅れてJBLからも、同素材を振動板に採用したスピーカーが登場しました。
Fostexは、あまりマルチチャンネル再生を意識した展開ではありませんでしたが、オーディオ評論家の
故 貝山知弘先生が、自身の試聴室「ボワ・ノワール」にFostexの「G2000(a)」をセンターとリアを含め5本導入したマルチチャンネルシステムを構築したことは、とても印象的な出来事でした。
ちなみに、写真の後ろに控えているのは、NHKモニターの「RS-N2」をベースにした、コンシューマーモデル「RS-2」です。当時でも珍しい大型ウーハー搭載の3wayでした。
Fostexは、
自作スピーカーの世界で主要な立場を占めています。Fostexと共に日本における自作スピーカー文化を牽引した、故 長岡鉄男 先生が2000年に亡くなられてから既に6年の歳月が経過していましたが、当時はまだ数多くのドライバー(特に2way製作に使えるウーハーとツイーター)をラインナップしていました。
Fostexの主力ユニットがフルレンジであることは、今も昔も変わりありません。面白いのは、翌年の2007年に発売される
20cmフルレンジ「FE208ES-R」は、2006年のA&Vフェスタでは、製品版の灰色のコーン紙でなく、ES振動板と思われる白いコーン紙を搭載していたプロトタイプだったことです。
オマケ
Fostexの80cmウーハー「FW800」。デモの時間が合わず、音は聴けませんでした。
JBL
2006年は、
JBLのフラッグシップモデル「DD66000」が発売された年です。後継機の「DD67000(2012年)」は、2025年まで生産されるロングセラーモデルになりました。
A&Vフェスタ2006では、ハルクロのパワーアンプとの組み合わせで鳴らされていました。今と変わらぬ盛況ぷりであったと記憶しています。
フライングモール
2001年に突如登場した
フライングモールの「DAD-M1」。当時珍しいデジタルアンプにより、ハガキサイズの本体から160Wを出すモノーラルアンプは、1台4万円。サイズと価格と、その出力は大きな注目を集め、デジタルアンプの風雲児としての地位を確立しました。
私も同社のアンプを自宅試聴したことがあるのですが、パリッとした歯切れのよい音が鳴る印象を持ちました。その後、デジタルアンプはSHARP、ONKYO、SONYを始めとした大手メーカーも使うようになり、
デジタルアンプ vs アナログアンプという構図があったことを思い出します。
おわりに
いかがでしょうか。現代と少し違う、オーディオショウの姿を楽しんでいただけたかと思います。A&Vフェスタは、他にもカーオーディオやビジュアルに関する展示がありましたが、今回はオーディオとホームシアター関係の展示を中心に見ました。
20年近い歳月が経った今、改めて見てみると、時代の変遷に驚かされることがある一方で、20年では殆ど変わらない普遍的なブランドイメージをもっているメーカーもあったと思います。次の20年でオーディオがどう変わっていくか楽しみです。
評論/情報 > オーディフィル音質探求道 >32. 2006年のオーディオショウ「A&Vフェスタ2006」