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第18回 シミュレーションでのホーン長の比較1

 前回までは、実測でのホーン長について評価をしてきました。ここからは、シミュレーションソフトHornrespを活用し、様々なホーン設計での特性を見てみます。

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計算の条件

 それではFostexの10cm口径フルレンジ「FE103NV2」を例に、ホーン長を1.0m~3.0mまで変えたときの変化をシミュレーションしてみます。FE103NV2はバックロードホーンに使える比較的安価なユニットということから選んでみました。

ホーン長さ違いでのシミュレーション

 上図に示したように、ホーンの開口部の面積を280cm2に固定したまま、ホーン長を調整したときの特性をシミュレーションしてみます。この場合、ホーン長が長くなるほど、ホーンの体積(スピーカーのサイズ)は大きくなります。

 それぞれの条件を一覧表にすると、下記のようになります。ホーン長が1.0mの条件①は、ホーン体積が12.3Lとブックシェルフ型でも実現可能な寸法になっています。一方で、ホーン長が3.0mの条件⑤は、ホーン体積が37.0Lと大型のトールボーイ型になることが分かります。

 BHシミュレーション条件の一覧


 Hornrespの入力画面は、下記のようになります。空気室内部の共鳴は、そのまま残して計算することにします。

 Hornrespの設定画面



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周波数特性

 ホーン長を1.0~3.0mまで変えた時の周波数特性は、以下のような結果になりました。ここで示しているのは、スピーカーユニット振動板とホーン開口の双方からの音を合成した特性です。


 ①ホーン長 1.0m (理論共振周波数85Hz)
 ホーン長1.0mでの周波数特性シミュレーション

 ②ホーン長 1.5m (理論共振周波数57Hz)
 ホーン長1.5mでの周波数特性シミュレーション

 ③ホーン長 2.0m (理論共振周波数43Hz)
 ホーン長2.0mでの周波数特性シミュレーション

 ④ホーン長 2.5m (理論共振周波数34Hz)
 ホーン長2.5mでの周波数特性シミュレーション

 ⑤ホーン長 3.0m (理論共振周波数28Hz)
 ホーン長3.0mでの周波数特性シミュレーション


 まず、ホーン長を伸ばしていくにしたがって、低域の再生下限が下がっていきます。これは、ホーンの一次共鳴(1/4波長)が下がっていくことに由来しています。
 細かく見ると、1/4波長で計算される周波数よりやや高めのところにピークが出てきています。これは、ユニットからの出音との干渉の具合によるものと思われます。

 また、ホーンを長くしても100Hz付近の低音域の音圧に変化はありませんでした。つまり、開口面積を変えずにホーン長を伸ばしても、低音量感が増えることは無い、という結果です。

 最低域の挙動を見ていくと、ホーンを3.0mまで伸ばすと、ローエンドに相当する30Hz付近に明らかなピーク(凸)が現れます。一方で、ホーン長が1.5m以下では、ローエンドにピークは生じず穏やかなショルダーとして低域が減衰していきます。
 ピークがあることは、共振Q値が大きいことを示しており、その帯域の量感を感じやすくなる一方で、音に遅れを感じる原因にもなることに注意が必要です。

 いずれにしても、開口部の面積を変えずにホーン長を伸ばすことは、最低音域の再生が有利になることが示されました。これは長岡先生のコメント(D-7とD-55の比較など)とも合致する結果です。



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インピーダンス特性

 次に、インピーダンス特性を比較します。

 ①ホーン長 1.0m (理論共振周波数85Hz)
 ホーン長1.0mでのインピーダンス特性

 ②ホーン長 1.5m (理論共振周波数57Hz)
 ホーン長1.5mでのインピーダンス特性

 ③ホーン長 2.0m (理論共振周波数43Hz)
 ホーン長2.0mでのインピーダンス特性

 ④ホーン長 2.5m (理論共振周波数34Hz)
 ホーン長2.5mでのインピーダンス特性

 ⑤ホーン長 3.0m (理論共振周波数28Hz)
 ホーン長3.0mでのインピーダンス特性


 よく、「インピーダンス特性の4つのピークが同じ高さだと成功」と言われますが、そもそもホーン長が2m未満ではピークが4本になることは無さそうです。

 なお、実際の作例では、最低域のインピーダンス特性ピークはシミュレーション結果より小さくなるような感覚があります。原因としては、空気漏れや、音の透過損失、吸音による損失など様々な影響が考えられます。




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群遅延特性

 最後に群遅延特性を比較します。実測では評価することが難しい特性で、解釈が難しい部分もありますが、参考として掲載します。

 ①ホーン長 1.0m
 ホーン長1.0mでの群遅延特性

 ②ホーン長 1.5m
 ホーン長1.5mでの群遅延特性

 ③ホーン長 2.0m
 ホーン長2.0mでの群遅延特性

 ④ホーン長 2.5m
 ホーン長2.5mでの群遅延特性

 ⑤ホーン長 3.0m
 ホーン長3.0mでの群遅延特性


 周波数特性の項目でも少し触れましたが、最低域の群遅延特性がホーン長が1.0~1.5mでは小さく、あまり低音量感を感じにくい結果になると思われます。ホーン長が2.0m以上になると、大きな遅延が得られ、ユラッと空気が動くようなBH特有の最低音域の表現が期待できます。

 一方で、ホーン長が2.5m以上になると、400Hz付近の群遅延が60msを超え、ホーホーというかなり強烈な付帯音が発生することが懸念されます。実際は吸音材の効果により抑制されますが、こうした挙動は注意しておくべきでしょう。



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まとめ

 今回は、ホーン開口部の面積(放射面積)を同じにしたまま、ホーン長を変えてのシミュレーションを行いました。結果をまとめると、以下の通りです。

 ・ホーンを短くしても、100Hz付近の低域量感は変わらない
 ・ホーンが短いと、インピーダンスの凸は4つにならないことがある
 ・ホーンが長いと、最低域の空気が動く感じは出しやすいが、400Hzのピークは強くなる



~続く~

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